賃貸物件における「原状回復」について正しく理解できているでしょうか。
原状回復は居住用と事業用で考え方も異なり、借主と貸主で認識に違いも出やすいため、トラブルにつながりやすい点でもあります。
そこで、今回はそもそも原状回復とは何か、トラブルを回避するために知っておくべき原状回復についても知識などをご紹介します。
金銭的な損やトラブルなく、気持ちよく退去できるよう、今記事を参考に原状回復について正しい知識を押さえましょう。
原状回復とは?
同音異義語に「現状回復」という言葉がありますが、不動産用語として使われるのは「原状回復」です。
原状回復とは賃貸物件の退去時に、入居した状態に戻すことを指します。
ここでは、原状回復について正しく理解するためにも、言葉の意味から詳しく解説していきます。
言葉から考える原状回復
「原状」は「もとの状態」という意味です。
そのため「原状回復」を直訳すると「もとの状態を回復させる」といった意味合いになります。
賃貸物件に使われる法律用語であるため、賃貸に住んでいる方は必ず押さえておきたい用語の1つです。
人によって期間は異なりますが、基本的には一定期間が経つと退去します。
数年住むことで部屋や設備の老朽化も進んでいくもの。新たな居住者を募るためにも、物件は可能な限り綺麗な状態にしておく必要があります。
そのため、住んでいるうちに老朽化が進んだもの、あるいは汚れてしまったものは入居時の状態に戻すことが求められます。
もちろん住んでいるうちに汚れてしまうのは当然のことですが、同時に建物自体も経年劣化が進んでいきます。
もとの状態に戻すためには修繕しなければならないため費用が発生します。
しかし、この費用については条件によって、借主と貸主のどちらが負担するかは異なります。
「現状」と「原状」
「原状」は「もとの状態」であり、「現状」は「今の状態」のことを指します。
つまり「現状回復」では「今の状態を回復させる」という意味合いになってしまうため、入居時の状態に戻す意味合いとはまったく異なります。
この意味合いでは賃貸借契約における言葉としてはふさわしくないため、必ず「原状」を用いなければなりません。
まれに契約書で「現状回復」と誤った表記になっているケースもありますが、正しくは「原状回復」なので意味を間違えて捉えないようにしましょう。
【用途別にみる】原状回復とは
賃貸物件を利用するにあたり、原状回復については必ず押さえておく必要があります。
賃貸物件と聞くと居住用のイメージが大きいですが、事業用のオフィスを賃貸している場合もあるでしょう。
実は原状回復は居住用と事業用で適用される法律や、賃借人が負う範囲や項目が異なります。
そのためここでは居住用と事業用に分けて、原状回復についてさらに深掘りしていきます。
居住用物件の場合アパートやマンションなど居住用の場合、原状回復の意味合いが本来のものと異なります。
ここでは居住用物件の原状回復について、詳しくみていきます。
居住用物件の場合
アパートやマンションなど居住用の場合、原状回復の意味合いが本来のものと異なります。また、居住用の賃貸借契約は、消費者契約法が適用される点が事業用との大きな違いです。ここでは居住用物件の原状回復について、詳しくみていきます。
居住用物件の原状回復の定義
居住用物件の場合、退去時の原状回復についてはトラブルが発生しやすいものです。トラブルを未然に防ぐためにも、居住用物件の原状回復について正しく理解しておきましょう。
ガイドラインにおいて居住用の民間賃貸住宅(アパートやマンション等)の原状回復は、以下のように定義されています。
賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること生活していけば、もちろんのこと部屋の設備は劣化していきます。
部屋を貸しているオーナーからすると建物の価値が減少していることであり、最悪のケースでは今後賃料を下げる必要も出てきます。
このようなオーナー側のリスクをカバーするために、賃借人にも原状回復が設けられています。
居住用物件の原状回復が賃借人負担になる場合は、「通常の使用」を超えるような仕様による消耗や毀損のみの復旧です。
つまり生活する上での経年劣化による自然消耗は、原状回復義務には含まれません。
年数が経つ上での建物の劣化、生活する上での自然消耗は避けられないことです。
そのため後から原状回復として請求するのはフェアではないため、これらの修繕費用は賃料に含まれるものと定められました。
「通常の使用」の定義は難しいため、ガイドラインでは以下のように具体的な事例を区分しています。
A | 賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの |
B | 賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの) |
A(+B) | 基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの |
A(+C) | 基本的にはAであるが、建物価値を増大させる要素が含まれているもの |
上記区分において、賃借人に原状回復の義務があるのは「B」と「A(+B)」のケースになります。
例えば、ベッドや冷蔵庫の運搬や移動時に床を傷つけてしまった場合は、賃借人の原状回復義務の範囲内です。
また最近流行っているDIYも要注意。もとの状態に戻せないほどDIYしてしまった場合には、原状回復にもかなりの費用がかかってしまいます。
またBやA(+B)の場合でも、経年変化や通常消耗は居住した年数が多いほど、負担額が少なくなる考え方を採用しています。
つまり賃借側は長く住んだからといって原状回復時の費用が多く請求されて、損することはありません。
また居住用の賃貸借契約では消費者契約法が適用されることから、貸主側は通常消耗における賃借人負担の特例は無効と判断される可能性があることに留意しなくてはなりません。
原状回復≠もとの状態に戻すこと
先にお伝えしたように「もと(入居時)の状態に戻す」意味合いを持つ原状回復ですが、居住用物件の場合はそもそもの意味と異なる使われ方がされています。
上記でもご紹介したガイドラインでは、居住用物件の原状回復は「賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」ことを明確化しています。なぜなら、経年劣化や通常の生活に伴う自然消耗は防げないことであり、後から賃借人に請求することではないからです。
そして経年劣化や通常使用による消耗の修繕費は賃料に含まれるものとしているため、責任は賃貸人のものとなります。
事業用物件の場合
事業用として、オフィスやテナントを賃借する会社も多いでしょう。
賃貸となれば同様に退去時に原状回復が求められるため、事業用物件の原状回復についても理解しておかなければなりません。
しかし、事業用物件の原状回復は、居住用物件とは違った意味合いとなることを押さえておきましょう。
居住用物件の原状回復との大きな違い
事業用物件の原状回復は本来の意味合いの通り「入居時の状態に戻すこと」が求められます。そのため基本的に経年劣化や自然消耗を含め、賃借側が負担しなければなりません。
これは判例(東京公判平成12年12月27日・判夕1095号176貢等)にもありますが、一般的には、事業用物件は居住用物件よりも、原状回復の幅を広く持たせることが可能なのです。
例えば、居住用物件の壁紙が経年劣化により汚れや傷ついても賃借人に原状回復の義務はありませんが、事業用物件の場合はその点の原状回復も賃借人が負う定めにすることが出来ます。
事業用物件は原状回復の統一的な決まりが少ない
事業用物件が原状回復の統一的な決まりが少ない理由には、以下の2点が挙げられます。
・事業ごとの使用目的により、消耗具合が大きく異なる
・建築、設備に関する争点は専門性が高く、ケースバイケースで状態が異なることが多いこと
また使用目的も居住だけのように一定ではなく、事業によってさまざまです。
そのため物件のもとの状態や、使用目的による消耗具合も全く異なります。
最初の状態がスケルトンであったり、テナントの要望を反映したもの、また入居工事を行って原状を変更するケースも出てくるでしょう。
このように事業用物件はケースバイケースになってしまうことから、事業用物件ごとに基準に合わせた契約や特約が用意されます。さらに厄介なのはオフィスやテナンのあるビルの運営ルールにより、原状回復のための施工条件や施工体制が変わる点です。
原状回復に当たる各方面の条件がケースバイケースになってしまうことで、居住用物件のように法的な一定基準を設けるのが困難となります。
そのことも関係し裁判になると専門家を介入した争点の洗い出しが難しく、かつ建築・設備の法律は専門性が高いことから判決を出すまで長期化してしまうのです。
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論点となり得る原状回復のケース
原状回復はガイドラインや契約書、特約により基準は設けられていても、個人の感覚や認識の違いにより論点となり得るポイントも多いものです。
ここでは居住用物件・事業用物件それぞれの、論点となり得る原状回復のケースをご紹介します。
居住用物件の場合
居住用物件は「消費者契約法」や「国土交通省のガイドライン」により、賃借人に手厚い保護がなされています。
また原状回復の基準も以下のように明確に定められています。
①‐A 建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年劣化)
①‐B 賃借人の通常の使用により生ずる損耗(通常損耗)
② 賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等※
建物は経年劣化に加えて住むことで損耗し、建物価値が減少するという考え方がされています。
つまり原状回復とは、建物価値の復旧です。
賃借人は経年劣化と通常損耗以外に発生した、不注意や過失による損耗や毀損に対してのみ原状回復の義務が設けられています。
ここで論点となり得るのは「どこまでが通常損耗とされるか」という点です。
明示されている基準では故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような損耗などは、賃借人が請け負うべき原状回復の範囲です。
しかし賃借人が通常損耗と認識している箇所でも、故意・過失として扱われ、原状回復を求められるケースも考えられます。
このような認識の違いを防ぐために、入居時に「物件状況及び原状回復確認リスト」のようなチェックリストを記入します。
そして退去時にはこれを参考に、賃借人原状回復義務の範囲内・外を決定します。
とはいえ生活していて気付かぬうちに傷や汚れをつけてしまうなんてことはよくある話です。
これを過失と捉えるか、通常損耗と捉えるかは難しいところになってしまいます。
基本的な考え方として、居住用物件の原状回復は「可能な限り毀損部分に限定した復旧」です。
そのため原状回復で求められる範囲が毀損部分の復旧にとどまらず、商品価値(物件価値)の維持・増大の側面が大きくなり、結果的に賃貸人が利益を得ることにならないよう経過年数を考慮する形となります。
事業用物件の場合
居住用物件とは異なり、経年劣化や通常損耗を含み賃借人が負担するのが事業用物件です。
居住用物件は「原状回復は、もとの状態の戻すことではない」と明確化されているものの、事業用物件では多くの場合、ほぼ100%もとの状態に戻す義務が課されています。
例えばオフィスの場合は、原状回復に以下のような作業が挙げられます。
・カーペットの張り替え、再塗装・壁紙、クロスの一部または全ての張り替え
・天井ボードの張り替え、補修、再塗装
・増設した間仕切り、パーテーションの撤去
・電気、電話回線の回復や撤去・床下回線の撤去
・床、窓、天井、看板、ネオンなどの撤去など
上記は一例ですが、細かい契約や特例によりこのような原状回復の指定があらかじめ定められるのが事業用物件です。
事業用物件はオフィスだけではなく、飲食店やサロンなど事業によって使用目的がさまざまです。
そのため原状回復に関する契約や特約は、事業ごとに異なります。
この内容を細かく決めておくほど、後から原状回復をめぐるトラブルになりにくいといえます。しかし、この契約や特約が定められることで、原状回復において高額の見積もりが出てしまうケースが論点になり得るポイントです。
高額な見積もりが発生しやすいのは賃貸借契約書で「原状回復工事の施工業者を指定している場合」となります。
指定されている施工業者は他業者と価格競争する必要がないため、安い施工業者と比較すると高くなってしまう傾向にあるのです。
反対に賃貸借契約書に施工業者の指定がない場合は、低価格で対応してくれる施工業者に依頼することもできます。
しかし他の業者に頼んだことで契約で定められた通りの原状回復工事ができていない、追加工事は発生してしまうなどの事態も想定されます。
最悪のケースでは退去日までに原状回復工事が終わらずに、追加の賃料を払わざるを得ない状況にもなりかねません。
そのため原状回復工事に指定業者が定められていない場合には、その点に注意する必要があります。
とはいえ施工業者を指定したからといって、高額で良いわけではありません。
極端に高額な原状回復工事費を請求された場合には話し合いをし、それでも折り合いがつかない場合に裁判へと発展してしまうケースが多いのです。
高額な見積もりを見極めるためには、相場を知っておく必要があります。
オフィスの例でいえば、小・中規模オフィス(〜100坪)は坪単価2〜5万円前後、大規模オフィス(100坪〜)は坪単価5〜10万円前後を目安として押さえておきましょう。
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原状回復をめぐるトラブルを防ぐために気をつけること
原状回復は賃貸関連でトラブルになりやすい点の1つです。
しかし必要なポイントをあらかじめ押さえておくことで、原状回復をめぐるトラブルを防ぎやすくなります。
気持ちよく退去できるようにも、ここでご紹介するポイントを押さえましょう。
契約関連で気をつける3つのこと
原状回復は退去時にしか関係ないと考えている方は要注意。
契約書には原状回復についての定めがあるため、契約前にもしっかりと確認しておかなければなりません。
まずは契約関連で気をつける3つのことをお伝えします。
契約内容をしっかりと確認する
物件を借りる時は賃貸人(不動産側)と賃借人は必ず契約を交わします。
その時に確認すべき契約書が「賃貸借契約書」です。賃貸借契約書には退去時の原状回復についてなど、物件を借りるにあたり重要な内容が記載されています。
契約内容は物件毎に異なるのですが、同じものだと思い込み、契約をよく確認しないことで後々トラブルになってしまうかもしれません。
その場合は契約内容を確認せずに合意した賃借人に責任があるため、異議を申し立てても不利な立場となってしまいます。
なかでも原状回復に関する契約内容をよく読まなかったことで、退去時に原状回復をめぐりトラブルになる事例は少なくありません。
また賃貸借契約は、賃貸人と賃借人が口頭で合意するだけでも成立する契約です。
基本的に契約書は作られますが、万が一口頭だけだった場合でも契約が成立していることは押さえておきましょう。
そして契約内容の中でも特に注意すべき点が特約です。
原状回復に関する特約を設けること自体は禁止されていません。
そのためオーナーによっては細かい特約を設けている可能性もあります。
しかしこれが賃借人に不利な内容になっていないかをきちんと確認した上で、より具体的に負担する範囲やおおよその金額について説明を求めることが大切です。
なかには具体的な修繕費などの単価を明示している場合もありますが、その金額が妥当なものであるかを確認してから契約を結ぶようにうしましょう。
居住用物件では消費者契約法が適用されることから、一般的に特約は無効とされる可能性が高いものです。
これは居住用物件の原状回復が、賃借人がもとの状態に戻すことではないと明確化されており、経年劣化や通常消耗については賃貸人が負担するものと決まっているからです。
しかし、事業用物件は異なり、経年劣化や通常消耗も含めて賃借人が請け負う原状回復義務の範囲とすることができます。特約は有効とされるため、その内容を契約前にしっかりと確認しなければなりません。
特約事項は一定の基準がないため、取り決めは自由です。
そのため退去時に認識の相違などでトラブルにならないためにもできる限り細かく設定し、双方が納得して契約を結ぶことが重要です。
入居確認を細かく行う
退去時の原状回復でトラブルになりやすいのは、入居時からあった損耗・損傷なのか、それとも入居中の通常損耗なのかという点です。
この点は、退去時の原状回復でトラブルの原因となりやすいため、本来であれば入居時も貸主が立ち会いを行うことで回避できるトラブルといえます。
しかし、現状では入居時の立ち会いは一般的ではありません。そのためこのようなトラブルを回避するためには、個人で入居確認を行うことが大切です。
不動産によってはチェックリストを渡され、提出を求められるケースもあります。
引っ越し時に搬入で傷がついてしまう可能性もあるため、まずは家具を置く前に一通り家の中を細かくチェックしましょう。
(万が一搬入時に傷がついてしまった場合には、修繕費を引っ越し業者へ請求できます。)
床や壁など見ただけで判断できるものだけではなく、実際に使ってみないと不備や故障がわからない設備もあります。
入居してすぐに使わない場合でも、なるべく早いうちに稼働させて状況を確認しましょう。
設備系の不具合などは独断で修理することで、逆にトラブルになってしまうこともあります。
そのため不具合があった場合には、管理会社や不動産会社に連絡するようにしましょう。
入居確認をしっかり行うことで、退去時のトラブルを回避しやすくなります。
口頭や書面だけでなく、日付入りの写真を残しておくと安心です。
ぜひ下記のチェックリストを参考に、未来の自分のために入念な入居確認を行いましょう。
>>入居確認のチェック項目
退去時の精算書の中身をじっくり確認する
退去時には入居確認の項目や物件の状態、経過年数を踏まえて原状回復に必要な精算書の見積もりが出ます。
この時に精算書の中身をしっかり確認することが重要です。
不当な精算内容でないかを確認するためには、以下のようなポイントを確認しましょう。
・特約がないのに、本体は賃貸人が負担すべき箇所が請求されている
・一部には傷をつけてしまったが、部屋全体の修繕が請求されている
・経過年数が考慮されずに100%の負担を請求されている
など事業用物件の場合は特約事項に則るためケースバイケースとなりますが、居住用物件の場合は賃借人が負担すべき箇所とそうでない箇所が明確になっています。
そのため本来賃借人が負担する義務のない項目まで精算書に含まれていないかを、サインする前に吟味する必要があります。
万が一精算書にサインしてしまっても、不当な請求であれば返還請求を求められます。しかしその場合裁判など余計にお金をかけないといけない事態にもなりかねません。
そのためサイン前に精算書の中身をじっくり確認し、不明な点は申し出るようにしましょう。
入居中に気をつける2つのこと
原状回復に関して気をつけるべきなのは契約・退去時のみではありません。
入居中に気をつけなかったことで想定外の原状回復費用が請求される可能性も考えられます。
ここでは入居中に気をつけるべき2つのことをお伝えします。
小さな不具合でも管理会社に連絡する
賃借人の原状回復負担の範囲は、故意・過失と善管注意義務違反の場合とされています。
善管注意義務とは、賃借人が民法400条に則って請け負う義務のことです。
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者はその引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない」と規定されています。
つまり賃借人は賃貸物であっても、自分のものと同等に大切に使用する義務が課されています。
そして多くの賃貸借契約書には善管注意義務として「居室内の設備等に不具合が発生した場合、貸主または不動産会社に報告すべき義務」が記載されています。
そのため不具合を報告せずに放置することで、善管注意義務違反を問われてしまう可能性があるのです。
例えば「トイレの配管から少し水漏れしていたが、特に問題がないので放置した結果、床が腐っていた」「エアコンが故障して動かなくなったが報告しなかった」といったケースでも善管注意義務違反とされる可能性があります。
ご自身の判断で問題ないと思っていることでも、契約上は善管注意義務違反とされてしまい、原状回復費用が請求されるかもしれません。
そのためどんな不具合でも早い段階で、報告することが重要です。
一般的な原状回復の事例
ここではどのような場合に賃借人・賃貸人の原状回復負担となるのかをご紹介します。
そんな場合に原状回復が請求されるのかをあらかじめ押さえておくことで、より気をつけて生活できるでしょう。
賃借人負担となる場合:通常損耗でないとみなされるケース
フローリングの傷 | 注意していれば防げた損耗とみなされる 例)作業や椅子などで引きずってついた傷や凹み 飲みのもなどをこぼして発生したしみやカビ |
壁の釘穴、ネジ穴 | 下地ボードの張り替えが必要になる程度の穴は通常の使用を超えたものとなる |
冷蔵庫下のサビ跡 | サビを放置して跡が残った場合には、適切に対処しなかったことが原因とされる |
結露によるカビやシミ | 結露の放置は賃借人の責任となり、通常の使用を超えたものとなる |
換気扇の油汚れ | 手入れが悪く油が付着したと判断されるケースもある |
水垢やカビ | 清掃や手入れを怠った結果として発生したものとなる |
賃貸人負担となる場合:通常損耗とみなされるケース
カーベットの家具跡 | 室内に家具を置くのは通常の生活に必要であるため通常損耗 |
画びょう、ピンの穴 | 下地ボードの張り替えが不要であれば通常損耗 |
冷蔵庫跡の壁の黒ずみ | 電気ヤケは通常使用の範囲内 |
畳やクロスの変色 | 日照など自然現象によるものは通常損耗 |
換気扇の油汚れ | 清掃で除去できる範囲であれば通常損耗 |
ハウスクリーニング | 賃貸人の原状回復範囲(賃借人が通常の生活・清掃をしていた場合) |
上記は一部の具体例であるため、使用状況や契約内容ケースも出てくるでしょう。
しかし賃借人は日々の清掃や手入れを怠らず、傷や汚れに気をつけて生活していれば、基本的には通常損耗として扱われる範囲が広くなるといえます。
国土交通省が発行している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、原状回復の具体例も記載しているため参考にしてみてください。
◼︎原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(p22前後)
まとめ
今回は退去時に知っておきたい原状回復について詳しくご紹介しました。
賃貸物件を利用するのであれば、誰しもに原状回復の義務が課されています。
しかし居住用物件と事業用物件で違いもあることは押さえておきましょう。
原状回復は金銭も絡んでくるためトラブルになりやすい一方で、契約時や入居時、退去時に気をつけることでトラブルを回避することができます。
ぜひ今記事を参考に原状回復への理解を深め、トラブルを防げるようにしましょう。