不動産売買の場で使われる用語には特殊なものも多く、「耳にしたことはあるけど実はどんな意味かよく知らない」という言葉も多いのではないでしょうか?
不動産投資を始めるのであれば用語の習熟は欠かせません。
そこで今回は用語の一つである「指値(さしね)」にスポットを当て、詳しく解説していきます。
そもそも指値とは?
「指値(さしね)」とは、「買主が購入価格を指定」することを表す言葉で、株式投資の際によく使われます。
「○○株を1,000円で1,000株買いたい」「△△株を1,000円で1,000株売りたい」といった売買の指値注文といいます。
しかしこの指値という言葉、実は不動産売買の際にもよく使われる言葉なのです。
どういった行為を意味するのか詳しくみていきましょう。
指値とはどのような行為を意味するのか
不動産売買で指値とは、値下げ交渉を意味します。
売主が提示する売出価格以外を指定するというところから値下げを意味する言葉として使われるようになりました。
値下げ交渉と聞くと「なんだか図々しい」「買主がわがままを言っている」などと思われがちですが、不動産の売買では決して珍しいことではなく、よく見られる行為の一つです。
それには不動産という特殊な商品ならではの理由があります。
家電製品や衣料品、食料品などは製造にかかるコストが明確で、それを踏まえたうえでの定価が存在するものがほとんどです。
しかし、不動産は違います。
明確な定価の存在しない不動産は立地や周辺環境、建物の築年数や状態などによって相場が決まっていますが、あくまで相場でしかなく、売主は自分で好きな売出価格を設定することが可能です。
そのため、購入希望者は売出価格についてまず妥当性を判断するところから始めるのです。
たとえ相場からかけ離れた価格であっても、買主がそれに納得していればそのまま購入しても何の問題もありません。
売出価格に納得できないと判断した場合や、値下げの正当性を裏付けられる事情が見つかった場合は指値による値下げ交渉を提案します。
指値とは、定価の存在しない不動産売買において、売主と買主が納得できる売出価格を決める行為といえるでしょう。
とはいえ、指値にもマナーがあります。
値下げ交渉といっても、自分の希望価格を強要するような無作法なものではありません。
売主が値下げに応じられるだけの具体的な根拠や交渉を行うことで始めて実現するのです。
どうしても高額になりがちな不動産を少しでも安く購入したいと思うのは自然なことですが、だからといって強引に話を進めたり、応じてもらえないからと失礼な態度を取ったりしてはいけません。
双方が納得し、気持ちよく取引ができるような態度を心がけましょう。
必ず応じられるというわけではない
マナーを守り誠意ある態度で指値の交渉を行ったとしても、交渉に応じるかどうかは売主次第です。
当然ながら、指値交渉を提案されても応じられないこともあります。
同時期に複数人から購入の意思表示があることも珍しくなく、提示額が高い人が優先される場合があるからです。
指値には申し込みの順番通りに交渉をしなければならないというルールはありません。
あくまでも「この人なら売ってもいい」と売主が判断した人だけが交渉権を持つのです。
また、売主側に事情がある場合もあります。
売買の対象となる不動産のローンが残っている場合は指値に応じたくても応じられないことが多いです。
ローンが残る不動産を売りに出す場合は、その売却額でローンを完済するのが一般的です。
そのため、ローン残額を下回ってしまうおそれのある指値には応じられません。
ローンが完済できなければ売主はもちろん、買主にも影響が出ます。
ローンを完済できなければ抵当権は外されないため、買主が新たにローンを組むことが難しくなるばかりか、場合によっては差し押さえられてしまうおそれがあるのです。
場合によっては取り上げられてしまう危険がある不動産を積極的に購入しようとする人は多くないでしょう。
このように残債のある不動産についての売買は双方にデメリットが生じるため、安易な指値交渉はおすすめできません。
不動産の購入を検討する場合は物件情報をよく確認し、購入後のデメリットを把握したうえで指値交渉を行いましょう。
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不動産投資をするなら知っておきたい指値の目安や交渉のコツ
不動産売買の場で指値による値下げ交渉は決して珍しくありませんが、交渉を行ったからといって必ずしも成立するとは限りません。
指値には相場や交渉が成立しやすくなるコツがあります。
投資初心者でも有効な交渉方法もあるので参考にしてみてください。
指値は1割が目安
指値による値下げ交渉でどれくらいまで価格を下げられるのか、気になる人も多いでしょう。
売出価格と成約価格を比較した統計などはないため、あくまで不動産業界での俗説でしかありませんが、指値による値下げ交渉では1割程度の減額が見込めるとされています。
ただし、物件の状況や景気などによって変わるため絶対とは言い切れないのが現状です。
売りに出された不動産が優良物件であれば購入希望者が多くなるため自然と価格が吊り上がってしまい、値下げ交渉を行えば購入は難しくなります。
同様に、不動産投資への参入が増える好景気では不動産全体の需要が高まり、値下げ交渉が成立しづらくなる傾向があります。
指値交渉が成立しやすく、また、値下げ幅を大きくできるのは人気のない物件や景気が悪く競合相手が少ない状況でしょう。
そういった時は売主も早く売ってしまいたいと考えているので、買主に有利な条件での交渉がまとまりやすいです。
指値しやすい取引条件とは?
指値交渉を成功させるには自分が有利になる状況に持ち込む必要があります。
交渉を確実に成功させるには相対取引が基本です。
相対取引とは売主と買主が1対1の状態で行う取引のことで、購入希望者が複数現れてしまうと競合しなくてはならないため、指値が難しくなります。
売主は必ずしも先着順で交渉を行う必要はありません。
購入希望者の中から一番いい条件を提示した人と取引を行うことも可能なのです。
そんな状況で値下げ交渉を提案しても取り合ってくれない可能性は高いでしょう。
最初は相対取引だったとしてものんびり交渉をしていると他の購入希望者が現れるおそれもあります。
指値交渉を成功させるには、競合相手が現れないうちにすぐ購入申込書を作成し、相対取引に持ち込みましょう。
また、売主がどんな人物なのかによっても指値交渉のしやすさが異なります。
一般的に指値交渉がしやすいとされているのは元々不動産を所有していたような地主です。
その逆に、指値交渉が難しいとされるのが不動産投資家です。
投資家同士であれば交渉もスムーズにいきそうなものですが、なぜ難しいのでしょうか?
それは、不動産投資家は不動産売買についての知識や経験が豊富だからです。
不動産に対して相場観を持つような投資家などが売主の場合、売出価格にも自分なりの根拠があり、妥当性を知っています。
買主が交渉材料として持ってくるような情報についても見当がつけられるので当然、対応策も講じているでしょう。
そもそも指値交渉に応じてくれない可能性が高いです。
しかし、相続などによって代々土地を所有している地主のような人物が売主であれば、「売れればそれでいい」「よくわからないから不動産会社に任せている」というスタンスの場合が多く、きちんとマナーを守り、段階を踏んだ交渉を行えば応じてもらいやすい傾向があります。
売主がどんな人物なのかは登記簿謄本でおおむね確認できます。
相続による所有権の移転やローンの借入が少なければ地主と判断していいでしょう。
大幅に値下げできる可能性を秘めている物件
指値交渉の値下げは1割程度が一般的ですが、中には大幅な値下げが期待できる物件もあります。
売り急いでいる不動産物件
ローンの返済が滞り物件を手放すことになった場合に取れる手段として任意売却という方法があります。
任意売却とは、物件の価値が下がっていたり、ローン残高が多すぎて物件を売却しても完済が難しいと判断した際に金融機関が同意をすることで売りに出せる仕組みです。
一般的な相場よりは2割ほど安い価格での売り出しとなりますが、競売よりは高く売れます。
差し押さえられて競売となると売主はもちろん、ローンを組んだ金融機関も大きなダメージを受けるため、任意売却によって少しでも回収しようと同意することが多いです。
任意売却による売主は早く現金化したいと考えるため、指値交渉にも応じてもらいやすく、大幅な値下げも期待できます。
販売してから時間が経過している不動産物件
販売を開始してから1年以上経過している物件は指値交渉がしやすいです。
売れ残るような物件はそもそもの売出価格が高すぎることが原因であることが多く、購入を希望する人が現れていない可能性が高いです。
売主が相場を知らずに独自で売出価格を設定してしまっているだけであれば、指値による交渉次第で大幅な値下げが期待できます。
しかし、売出価格にこだわりのある売主だと、どんなに相場からかけ離れた売出価格であったとしても、値下げ交渉に拒否反応を示す場合があります。
その際は無理に交渉しようとせずに潔くあきらめましょう。
売主が疲れている不動産物件
不動産の売買では契約書を交わさなければ内容変更が可能です。
購入申込書の段階では法的拘束力はなく、何らかの事情により成約間際になって破談となることも珍しくありません。
高額となる不動産の売買では交渉に時間がかかるものです。
何度も話し合いを行ったり、資料を作成したりしなければならず、時間と労力を伴います。
交渉がまとまり、成約となればその苦労も報われるというものですが、直前で破談となれば疲労感だけでなく精神的にも辛いものでしょう。
そういった売主の場合、物件購入の意思表示を明確にすることで、指値を提案すれば大幅な値下げに応じてくれやすいです。
ただし、そういった事情のある物件というのは仲介会社としても慎重に扱わなければならず、紹介するかどうかは担当者と買主の信頼関係の度合いが大きく影響します。
紹介してもらえるだけのツテが必要となるので日ごろから不動産会社との関係づくりがポイントになるでしょう。
指値のコツとは?
指値に持ち込めたからといって必ずしも交渉が成立するとは限りません。
指値交渉を成功させるにはコツがあります。
上三桁目は切り捨てる
不動産価格は「123,000,000円」「98,700,000円」など、上三桁で表示されるのが一般的で、1円単位まで表示されることはありません。
そのため、上三桁目を切り捨てる交渉が初心者向けの指値といわれています。
具体的な例をみてみましょう。
◎123,000,000円から指値交渉する場合は120,000,000円
◎98,700,000円から指値交渉する場合は98,000,000円
上三桁目を切り捨てるというのは単純明快でわかりやすいため、比較的成功率が高いです。
しかし、例を見てもわかるように減額幅はあまり大きくないため、様々な交渉が失敗に終わった場合の最終手段として使うのがいいでしょう。
仲介会社を味方に付ける
不動産の売買には多くの法律やルールが絡むため、専門知識を持った仲介会社を介するのが一般的です。
指値交渉を成功させるにはこの仲介会社を味方に付けるという方法もあります。
不動産投資歴が長いのであれば自身の投資実績を資料として見せることで買主としての信頼を得やすいです。
まだ資料として見せられるほどの実績がない場合は、仲介会社の担当者とこまめに連絡を取り合うなどのコミュニケーションを図り、誠実な態度で信頼を得ていきましょう。
担当者としても態度が悪く面倒な注文ばかりつけてくる人よりも、マナーがよく熱心で前向きな姿勢の人の方が印象がよく、協力的になってもらえます。
指値できそうな物件を見極める
売出価格と相場にほぼ差がない物件は指値交渉がしやすいです。
これは売主が不動産売買に疎く、価格設定ができないなどの理由で不動産会社が相場の価格をそのまま設定している可能性が高いためです。
売買に関わる交渉や手続きも不動産会社に一任していることが想定できるため、不動産会社との交渉だけで値下げができる確率が高くなります。
不動産会社としては成約によって得られる仲介手数料が得られればそれでいいため、常識の範囲内の価格であれば応じるケースが多いです。
売主の状況を知る
相続で受け取ったり、長く使用していなかったりする物件の場合、残置物があるケースが多いです。
少しでも高く売りたいと考えるなら残置物の撤去をするはずで、それをしないということは余程の事情がある可能性が高く、指値交渉がしやすいです。
残置物の片付けを負担するなどの条件を付ければ大幅な値下げが期待できます。
ただし、片付けをしたことで物件の欠陥が明るみに出る場合もあります。
不動産会社の担当者にも同行してもらうなど、不測の事態に備えておく必要があるでしょう。
指値の交渉材料になるものを把握しておく
指値交渉を成功させるには入念な準備が欠かせません。
ただ値下げをしてほしいと要求するだけでは売主も応じにくいものです。
交渉を有利に進められる材料は次の3つです。
修繕履歴
まずは物件の修繕履歴を確認しましょう。
アパートやマンションなどは定期的なメンテナンスが必要で、特に大規模修繕などは時間も費用もかかります。
そのため、設備の入れ替えや大規模修繕を行う前に売ってしまいたいと考える売主が多いです。
こういった過去のメンテナンス実績や大規模修繕の実施の有無などは交渉材料にされやすいため、売主が投資家であれば修繕履歴をきちんと管理しています。
売主が個人の場合は修繕履歴の管理がされていないことが多く、管理のずさんさや、購入後に控える大規模修繕を理由に指値交渉を要求しやすくなります。
入居者の状況
不動産投資では入居者からの家賃収入が主な収益となるため、入居者の状況は大きな交渉材料になります。
事前に仲介業者へ確認しておきましょう。
仲介業者は隣人とのトラブルの有無や事故物件かどうかなど、買主に質問されたら答えなければならない説明義務があります。
その中には退去予定のある入居者の有無や、家賃の減額交渉を行っている入居者の有無なども含まれており、もし存在する場合は指値交渉の材料にできます。
説明義務とは聞かれた場合にのみ発生するもので、買主が質問をしなければ仲介業者から教えてくれることはありません。
購入後に慌てることのないよう、事前にしっかり確認しておきましょう。
銀行の融資可能額
一般的に中古物件は担保価値が低いと判断されがちのため、指値交渉を行う前に銀行の融資審査を受けておきます。
売出価格が5,000万円の物件について融資可能額が3,000万円と判断された場合、その差額を理由に指値交渉に持ち込みましょう。
「銀行の審査が厳しく、がんばっても4,000万円ほどしか用意できない」などと言われてしまえば売主も応じざるを得なくなります。
提示する価格に“銀行の審査”という根拠をつけることで説得力が増し、交渉を有利に進められるでしょう。
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不動産を指値でお得に購入するメリット
指値交渉により不動産を安く購入するとどんなメリットがあるのでしょうか?
メリットを把握しているかどうかで指値交渉の仕方も変わってきます。
ここでは代表的な3つのメリットをご紹介しましょう。
リフォームなど他の費用に回せる
アパートやマンションによる家賃収入を得る形態の不動産投資の場合、コンスタントに入居者を迎えることが安定した収入につながります。
一般的に入居希望者から好物件とされる条件は、アクセスや周辺環境の他に「建物や室内がきれい・リフォームされている」「最新設備が付いている・設備が充実している」といった居住環境の快適さを示すものが多いです。
どんなにアクセスや周辺環境に恵まれている物件でも、室内が汚れていたり、設備が古かったりすると入居希望者は増えません。
物件の購入費用を抑えることで、浮いたお金をリフォームや設備の入れ替えなどに回せるようになるため、結果として安定した家賃収入を得ることにつなげられます。
条件の良い部屋を提供できる
物件購入費用を抑えることで十分なリフォームができるため、条件のいい部屋を用意できます。
好立地であれば多少物件の条件が悪くても入居希望者が現れるでしょうが、そうでなければ競合に負けてしまいます。
入居者を得るためには家賃を下げるなど、他の条件を見直さなければなりません。
また、指値交渉をせずに物件を購入し同程度のリフォームをした場合、その費用は家賃や管理費に上乗せしなければなりません。
不動産投資を行ううえで入居者を得ることは収益に直結するため、物件購入費用を抑えることは重要です。
不動産の購入費用を回収しやすい
不動産投資では家賃収入が主な収益となるため、物件を購入した費用は毎月の家賃収入によって回収することになります。
そのため、物件の購入価格を抑えることは回収期間の短縮につながり、その分多くの収益を得られます。
物件は時間経過により劣化するため、修繕や設備の入れ替えなどのメンテナンスが必要です。
築年数が増せばメンテナンスの頻度も上がっていくため、購入費用の回収が終わらないままメンテナンス費用がかさむようになると収益を得られなくなるおそれがあります。
費用の回収を早めに済ませておくことは安定した不動産投資を行うために欠かせないポイントといえるでしょう。
まとめ
今回は指値について、その概要や交渉を成功させるコツ、指値交渉によって購入するメリットなどをご紹介しました。
指値とは株式売買や不動産売買でよく使われるため、これから投資を始めようと考えているなら知っておきたい言葉の一つです。
特に、定価の存在しない不動産売買では指値による値下げ交渉は珍しくなく、その手法や成約に持ち込むためのコツなどは把握しておいた方がいいでしょう。
ただし、指値とはあくまでも売主と買主の両方が合意の上で行われる交渉です。
不動産を売りに出すにあたって込み入った事情があることも少なくなく、売出価格は譲れないという売主もいます。
売主の感情を無視して一方的に交渉を進めようとすることは明らかなマナー違反となるので注意しましょう。
また、売りに出されている物件の中には指値交渉をしやすいものもあります。
経験やコツをつかんで指値交渉を成功させてください。