Webサービスの発展により、人々の生活はより便利で快適なものに進化しつつあります。
そして、今後生活を大きく変える可能性のあるサービスとして注目されているものの1つにMaaS(Mobility as a Service)が挙げられます。
MaaSの発展により、立地に左右されない移動の利便性が実現するかもしれません。
そんなMaaSは、不動産と親和性が高いものといわれています。そのため国内でも多くの不動産事業者がMaaSに着目した、サービスや実証実験を展開し始めているのです。
たとえば大手不動産事業者の三井不動産は「不動産×MaaS」の実証実験を開始しています。
そこで今回は不動産の中でも価格に着目し、MaaSとの関係について考えていきます。
Maasとは
数年前から少しずつ注目を集め始めたMaaS。メディアやニュースなどで目や耳にする機会も増えてきました。しかし具体的にどういうものなのかまで理解している方は少ないのではないでしょうか。
まずはMaaSとは何かについて、事例も合わせて解説していきます。
MaaSとは
MaaSとは「Mobility as a Service」の略で、「マース」と読みます。近年急速に発達したSaaSやIaaSのようなサービスに影響して生まれたものです。
MaaSは直訳すると「サービスとしての移動」という意味になります。漠然とした表現ですが、サービスとしての移動であれば、既存の公共交通機関もその一部と言えるでしょう。では、MaaSはどういった点で革新的であり、注目されているのでしょうか。
移動が必要になった際、マイカー以外を移動手段とするのであれば、必要な交通機関をユーザー自身が探す必要があります。つまり公共交通機関やシェアリングサービスなど、必要な交通サービスに個別でアクセスしているということです。また、そこに付随する検索や予約、支払いなども個々に対応する必要があります。
一方、MaaSであれば1つのアプリから全交通機関にアクセスでき、「検索」「予約」「支払い」までが一括で対応可能。また公共交通機関だけでなく、カーシェアやシャアサイクルのよなあらゆる交通手段がプラスされます。さらにユーザーが目的地に到着するためのあらゆる手段を提案してくれるだけでなく、予約や支払いまでが1つのサービスで完結するのです。
つまり、MaaS とはICTを活用して交通をクラウド化し、移動の利便性を高めるためのサービスのことです。MaaSにより、マイカーを持っていない・あるいは必要のない方の移動がシームレスになり、移動による手間や制限が解消されるのです。
注意すべき点として、MaaSは移動の利便性を高めるためのサービスであり、目的ではありません。そのためMaaSを通して何を実現するのかといった、根底の目的をはっきりさせることが重要です。
MaaS先進国の事例
MaaS誕生の地は、北欧フィンランドです。2006年にサンポ・ヒエタネン氏が発案したアイデアをベースに、2014年に概念が発表。そしてその翌年には、首都ヘルシンキで世界初となるMaaS「Whim」が誕生しています。
MaaSのパイオニアでもあるフィンランドですが、導入の背景には以下のような国の課題が関係していました。
・大都市の渋滞問題
・移動手段の約80%が自家用車であることからの、排気ガスによる環境汚染問題
・増加する高齢者の移動手段の確保
・都市圏の人口拡大に伴う、公共交通機関への体系移動の必要性
上記の課題解決に踏み込むため、フィンランドの首都ヘルシンキにあるベンチャー企業「MaaS Global」が、運輸通信省と産官学コンソーシアム「ITSフィンランド」の支援を受けて、世界の初MaaS「Whim」を立ち上げました。そして2017年から、ヘルシンキで実用化されています。
Whimはスマートフォンアプリの提示により、電車やバスといった公共交通機関、タクシーや自転車などのあらゆる交通手段が利用でき、予約や支払いまでも一括で対応可能です。個人の利用状況に応じて最適なプランが選べるよう、以下の料金プランが用意されています。
・Whim To GO:1回ごとの決済制 ・Whim Urban:月額49ユーロ(約6,100円) ・Whim Weekend:月額249ユーロ(約3,1000円) ・Whim Unlimited:月額499ユーロ(約62,000円) ※1ユーロ126円換算(2021年1月末時点) |
ユーザーは料金プランに応じて、ポイントが引き換えられます。このポイントを利用して、Whimの提案した交通手段を利用し、予約や支払いまでを済ませます。
またWhimは各プランごとに特典が追加されている点が、ユーザーへのベネフィットの1つ。以下は各プランの特徴です。
※HSL=ヘルシンキ市交通局
Whim Urban | ・HSLの公共交通機関が乗り放題 ・5kmまでの利用で毎回10ユーロ ・レンタカー1日分の利用料が49ユーロ ・シェアサイクルの利用が30分まで無料(初夏〜秋) |
Whim Weekend | ・HSLの公共交通機関が乗り放題 ・タクシー料金が15%オフ ・週末のレンタカー利用料が無料 ・シェアサイクルの利用が30分まで無料(初夏〜秋) |
Whim Unlimited | ・HSLの公共交通機関が乗り放題 ・5kmまでのタクシー利用が月80回まで無料 ・レンタカー利用料が常に無料 ・シェアサイクルの利用が30分まで無料(初夏〜秋) |
上記のようにさまざまなベネフィットを提供することで、ユーザーのWhim利用を促しています。また1回ごとの決済制である「Whim To GO」では、通常料金よりも割安になります。Whimは国の課題解決のためだけでなく、ユーザーに対して移動に新しい価値を提供できている点がポイントです。
Whimのような先進国の事例を踏まえ、三井不動産の実証実験ではWhimを導入しています。現時点ではまだ実証の段階ですが、日本でもMaaSがこのような形で成長していくと考えられま。
INA&Associates Inc.は、不動産、IT、投資などにおける専門性と技術を活かし、「不動産」×「IT」を実現するために発生する、複雑な事柄に真摯に向き合い、”不動産をもっと分かりやすく。住まいを探されている方にとってもっと使いやすく。取引をもっとスムーズに。” 不動産×ITで独自の価値をお客様に提供することを目指しています。
不動産価格とMaaSについて
ICTの活用により、人々の移動をシームレスにしてくれるMaaS。MaaSは不動産と深い関わりを持つものであり、その中でも不動産価格に大きく影響するものといえます。
ではなぜMaaSが不動産価格に影響をもたらすのでしょうか。不動産価格の考え方を踏まえて、その関係性をみていきましょう。
不動産価格の考え方
不動産は重要なインフラの1つです。生活するため、仕事するため、遊ぶため…生きていく上でさまざまな目的を果たすためには「場所」を提供する不動産の存在が欠かせません。
普段は不動産価格に触れて生活することはありませんが、マンションやアパートを借りる、家を買う、新しく事業を始めるなどのシーンで、私たちは初めて不動産価格に触れます。
しかし借りる・購入するだけの場合、私たちはすでに決定されている不動産価格しか目にしません。そのため単純に建物という個体に関する価格であると思われがちですが、その価格はあらゆる要因を加味した上での数字なのです。
このように不動産価格を決定する要因のことを、専門用語で不動産形成要因といいます。ここでいう不動産とは土地とそこにある建物のことを指します。MaaSとの関連性でいえば、交通の発展状態や利便性が不動産価格に影響するのです。
不動産価格形成要因には「一般要因」「地域要因」「個別的要因」の3つの要因があります。前提として、まずはどのように不動産価格が決定するのかをみていきましょう。
①一般要因
一般要因とは、不動産価格を算出する上での世の中の経済的、社会的情勢のことです。不動産は資産として扱われるものであり、通貨や株のように世の中の情勢に価値が左右されます。一般要因はさらに「自然的要因」「社会的要因」「経済的要因」「行政的要因」の4つの要因に分類されます。
自然的要因 | 1.地質、地盤等の状態 2.土壌及び土層の状態 3.地勢の状態 4.地理的位置関係 5.気象の状態 |
社会的要因 | 1.人口の状態 2.家族構成及び世帯分離の状態 3.都市形成及び公共施設の整備の状態 4.教育及び社会福祉の状態 5.不動産の取引及び使用収益の慣行 6.建築様式等の状態 7.情報化の進展の状態 8.生活様式等の状態 |
経済的要因 | 1.貯蓄、消費、投資及び国際収支の状態 2.財政及び金融の状態 3.物価、賃金、雇用及び企業活動の状態 4.税負担の状態 5.企業会計制度の状態 6.技術革新及び産業構造の状態 7.交通体系の状態 8.国際化の状態 |
行政的要因 | 1.土地利用に関する計画及び規制の状態 2.土地及び建築物の構造、防災等に関する規制の状態 3.宅地及び住宅に関する施策の状態 4.不動産に関する税制の状態 5.不動産の取引に関する規制の状態 |
②地域要因
地域要因とは、不動産がどのような目的で利用されるかを踏まえた上で価格が左右されるものです。たとえば居住目的の場合は、交通の整備状態や騒音の有無、公共施設などの配置状態などが地域要因となります。
不動産の利用目的は地域として分類され、「住宅地域」「商業地域」「工業地域」「農地地域」「林地地域」の5つに分類されます。
住宅地域 | 1.日照、温度、湿度、風向等の気象の状態 2.街路の幅員、構造等の状態 3.都心との距離及び交通施設の状態 4.商業施設の配置の状態 5.上下水道、ガス等の供給・処理施設の状態 6.情報通信基盤の整備の状態 7.公共施設、公益的施設等の配置の状態 8.汚水処理場等の嫌悪施設等の有無 9.洪水、地すべり等の災害の発生の危険性 10.騒音、大気の汚染、土壌汚染等の公害の発生の程度 11.各画地の面積、配置及び利用の状態 12.住宅、生垣、街路修景等の街並みの状態 13.眺望、景観等の自然的環境の良否 14.土地利用に関する計画及び規制の状態 |
商業地域 | 1.商業施設又は業務施設の種類、規模、集積度等の状態 2.商業背後地及び顧客の質と量 3.顧客及び従業員の交通手段の状態 4.商品の搬入及び搬出の利便性 5.街路の回遊性、アーケード等の状態 6.営業の種別及び競争の状態 7.当該地域の経営者の創意と資力 8.繁華性の程度及び盛衰の動向 9.駐車施設の整備の状態 10.行政上の助成及び規制の程度 |
工業地域 | 1.幹線道路、鉄道、港湾、空港等の輸送施設の整備の状況 2.労働力確保の難易 3.製品販売市場及び原材料仕入市場との位置関係 4.動力資源及び用排水に関する費用 5.関連産業との位置関係 6.水質の汚濁、大気の汚染等の公害の発生の危険性 7.行政上の助成及び規制の程度 |
農地地域 | 1.日照、温度、湿度、風雨等の気象の状態 2.起伏、高低等の地勢の状態 3.土壌及び土層の状態 4.水利及び水質の状態 5.洪水、地すべり等の災害の発生の危険性 6.道路等の整備の状態 7.集落との位置関係 8.集荷地又は産地市場との位置関係 9.消費地との距離及び輸送施設の状態 10.行政上の助成及び規制の程度 |
林地地域 | 1.日照、温度、湿度、風雨等の気象の状態 2.標高、地勢等の状態 3.土壌及び土層の状態 4.林道等の整備の状態 5.労働力確保の難易 6.行政上の助成及び規制の程度 |
③個別要因
個別的要因は「土地」「建物」「建物及びその敷地」ごとに価格に影響する要因のことです。その中でも土地は「宅地」「農地」「林地」に分類され、なかでも「宅地」は「住宅地」「商業地」「工業地」に分けられます。
土地に関する個別要因
宅地 | 住宅地 | 1.地勢、地質、地盤等 2.日照、通風及び乾湿 3.間口、奥行、地積、形状等 4.高低、角地その他の接面街路との関係 5.接面街路の幅員、構造等の状態 6.接面街路の系統及び連続性 7.交通施設との距離 8.商業施設との接近の程度 9.公共施設、公益的施設等との接近の程度 10.汚水処理場等の嫌悪施設等との接近の程度 11.隣接不動産等周囲の状態 12.上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易 13.情報通信基盤の利用の難易 14.埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態 15.土壌汚染の有無及びその状態 16.公法上及び私法上の規制、制約等 |
商業地 | 1.地勢、地質、地盤等 2.間口、奥行、地積、形状等 3.高低、角地その他の接面街路との関係 4.接面街路の幅員、構造等の状態 5.接面街路の系統及び連続性 6.商業地域の中心への接近性 7.主要交通機関との接近性 8.顧客の流動の状態との適合性 9.隣接不動産等周囲の状態 10.上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易 11.情報通信基盤の利用の難易 12.埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態 13.土壌汚染の有無及びその状態 14.公法上及び私法上の規制、制約等 | |
工業地 | 1.地勢、地質、地盤等 2.間口、奥行、地積、形状等 3.高低、角地その他の接面街路との関係 4.接面街路の幅員、構造等の状態 5.接面街路の系統及び連続性 6.従業員の通勤等のための主要交通機関との接近性 7.幹線道路、鉄道、港湾、空港等の輸送施設との位置関係 8.電力等の動力資源の状態及び引込の難易 9.用排水等の供給・処理施設の整備の必要性 10.上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易 11.情報通信基盤の利用の難易 12.埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態 13.土壌汚染の有無及びその状態 14.公法上及び私法上の規制、制約等 |
農地 | 1.日照、乾湿、雨量等の状態 2.土壌及び土層の状態 3.農道の状態 4.灌漑排水の状態 5.耕うんの難易 6.集落との接近の程度 7.集荷地との接近の程度 8.災害の危険性の程度 9.公法上及び私法上の規制、制約等 |
林地 | 1.日照、乾湿、雨量等の状態 2.標高、地勢等の状態 3.土壌及び土層の状態 4.木材の搬出、運搬等の難易 5.管理の難易 6.公法上及び私法上の規制、制約等 |
建物
1.建築(新築、増改築又は移転)の年次 2.面積、高さ、構造、材質等 3.設計、設備等の機能性 4.施工の質と量 5.耐震性、耐火性等建物の性能 6.維持管理の状態 7.有害な物質の使用の有無及びその状態 8.建物とその環境との適合の状態 9・公法上及び私法上の規制、制約等 |
建物及びその敷地
1.借主の状況及び賃貸借契約の内容 2.貸室の稼働状況 3.修繕計画及び管理計画の良否並びにその実施の状態 |
駅までの距離や道路の整備状況が不動産価格に大きく影響する
上記でさまざまな不動産価格の決定要因をお伝えしました。今記事のテーマでもあるMaaSは、その中の要因の1つである交通に関係するものです。
特に居住目的であれば「駅までの距離」や「道路の整備状況」が関係してきます。さらに細かくいえば、電車移動が中心の都市部では駅までの距離、マイカー移動が中心の郊外であれば道路の整備状況が、不動産価格を大きく左右します。実際に物件を借りたり、購入する際は、交通機関への距離や周辺交通の整備状況は重要な比較材料となっています。
またこれは物件を借りる・購入する人だけでなく、売却する側にも大きく関係するものです。特に不動産投資でマンションやアパートなどを資産として所有する場合には、交通要因が売却において重要なポイントとなります。
その例として、国土交通省による「不動産取引価格情報」のデータから、東京都の中古マンションの売却価格と駅までの距離の関係性をみていきます。
最寄り駅までの所有時間 | 平均取引価格 | 平均面積 | 平均㎡単価 |
1〜5分 | 4,486万円 | 70.4㎡ | 61.3万円 |
6〜10分 | 4,204万円 | 70.8㎡ | 57.2万円 |
11〜15分 | 3,454万円 | 69.5㎡ | 48.4万円 |
16分以上 | 2,825万円 | 69.7㎡ | 40.0万円 |
上記のデータは、東京都内の3LDKマンションとなります。表からみてもわかる通り、駅から徒歩1〜5分圏内のマンションは圧倒的に平均㎡単価が高く、平均取引価格も6〜10分の物件より約200万円高くなっています。駅からの距離が遠くなっても平均面積に大きな差はないことから、「広い部屋よりも、駅に近い物件」の需要が高い傾向があることがわかります。また近年、新築マンションの多くは駅から近い距離に建てられていることがほとんどです。これはマンションが多い都市部が、電車移動を中心としているためと考えられます。そのためマンション販売においても、駅近物件であることが重要視されています。
駅近のマンションの供給が増加傾向にあることからも、駅から離れたマンションの需要は減少傾向にあるといえます。つまりそれだけマンションを借りる・購入するにあたり、駅までの距離を重視している人が多いということ。そのため不動産投資でいえば、駅近でない物件では、売却による利益に期待しにくいということを押さえておく必要があります。
さらにその傾向は、戸建て住宅にもいえることです。戸建ての場合はマイカーを所有している層が多く、マンションほど駅までの距離が重視されないものの、売却の際の資産価値は駅までの距離が「徒歩10分」を基準として評価されます。駅から近いほど評価はプラスであり、遠くなるほどマイナス評価で売却価格も低くなる傾向にあります。そして評価が±0となるのが、徒歩10分のラインなのです。
マンションの例と同じく国土交通省の「不動産取引価格情報」のデータベースをみると、延床面積がほとんど変わらない戸建て住宅でも、最寄り駅までの距離によって以下のように取引価格に差が生じます。
最寄り駅までの所有時間 | 平均取引価格 | 延床面積 | 平均㎡単価 |
1〜5分 | 5,250万円 | 95.6㎡ | 54.7万円 |
6〜10分 | 5,027万円 | 95.0㎡ | 57.2万円 |
11〜15分 | 4,475万円 | 94.5㎡ | 47.4万円 |
16分以上 | 3,820万円 | 95.1㎡ | 40.4万円 |
極端な例でいえば、最寄り駅までの距離が5分と6分の1分の差で、価格は約200万円違います。またその差が10分ほど開けば、約1,000万円もの差が生じます。
つまりここでお伝えしたいことは、多くの価格形成要因がある中でも、交通の利便性による価格形成への影響は大きいということです。
電鉄関連の大手不動産会社が多くある理由にも直結
上記の内容から、駅近物件の需要と供給は高い傾向にあり、売却においても駅近物件が有利であるということがわかりました。不動産価格の話とは少し異なりますが、駅近物件の需要が高いことは、電鉄関連の大手不動産会社が多くある理由に直結しています。
電鉄関連の不動産は、親会社が私鉄運営を行ってる企業です。一般的に親会社の開発部などが鉄道用の土地の買収や開発、分譲事業を行っています。その土地を不動産事業として販売しているのが、子会社の不動産事業者です。また単に不動産を販売するだけでなく、駅というインフラを作って土地を売却することもあります。
駅近物件の需要が高いのであれば、駅開発事業を行なっている電鉄会社が所有する駅近の土地を販売するのは、理にかなっています。鉄道会社のメイン事業は駅を作る・整備するための土地開発であるため、子会社が不動産事業を担当しているということです。また子会社を持たず、鉄道事業と合わせて不動産業を営む会社もあります。
以下は日本の電鉄関連の大手不動産会社の具体的な事例です。
東急不動産
東急不動産は、東京急行電鉄を中核企業とした220社8法人で構成される東急グループの1つです。大手私鉄である東急電鉄の交通事業を基盤とし、東急不動産をはじめとして「街づくり」事業を根幹においています。
東急不動産では土地開発やオフィス、商業施設づくりの「都市事業」、分譲住宅や賃貸住宅の「住宅事業」をメインに展開しています。単に都市開発、住宅の提供にとどまらず、グローバル都市の価値向上や地域コミュニティの活性化などにも取り組んでいる点が特徴です。
小田急電鉄
小田急電鉄は、東京都・神奈川県を中心に鉄道事業・不動産業を展開している大手私鉄会社です。生活サービス部門において不動産事業を展開しており、沿線に住む人々に便利で快適な生活を提供するため、商業・オフィスビルやホテルなどの不動産賃貸業を積極的に展開しています。また沿線の発展を目指し、創業時より魅力ある街づくりのための不動産分譲業も行なっています。
京急不動産
京急不動産は、京浜急行電鉄株式会社を中核とする京急グループの不動産会社です。戸建て・マンション・土地などの不動産売買を行なっています。京急沿線エリアを中心に、24,712戸もの住まいを供給し、大規模なニュータウンをはじめ、戸建てやマンション、別荘などさまざまな住宅や街づくりを手掛けています。
阪急阪神不動産
阪急阪神不動産は、関西大手私鉄の阪急線を展開する阪急阪神ホールディングスの不動産事業を営む会社です。沿線の発展を目指し、分譲マンションや戸建て・宅地の住まい提供のほか、オフィスや商業施設、さらには都市マネジメントによる街づくりも行なっています。
京阪電鉄不動産
京阪電鉄不動産は、京阪電気鉄道を展開する京阪ホールディングスの不動産事業を営む会社です。関西をはじめ首都圏・札幌・海外などの分譲マンション・建売住宅・不動産仲介・リフォームなどの事業を展開しています。電鉄系の不動産会社としては歴史が浅く、京阪電気鉄道株式会社が京阪沿線を開発基盤として不動産事業を拡大するために、2000年に設立されました。
チャット、LINEにてお部屋探しが出来る点が特徴。仲介手数料は賃料0.5ヶ月分!(対象地域:東京、神奈川県、埼玉県、千葉県) すまいをもっと自由に、もっとたのしくタウンマップ!
MaaSの発展と不動産価格について
ヘルシンキでのMaaS「Whim」の実用化、そして日本においては三井不動産のMaaSを用いた実証実験の開始など、MaaSの発展に向けてさまざまな動きがあります。
MaaSは単なる“移動の最適化”ではなく、“街づくり・生活基盤を支えるもの”としての役割が見出されたからこそ注目されています。であれば、街づくり・生活基盤の主役である不動産は、MaaSの発展によりこれまでとは違ったものになるかもしれません。
そしてMaaSは移動の利便性を上げるサービスのこと。移動の利便性は不動産価格に影響するもの。つまり「MaaSの発展=不動産価格の変化」と考えることができます。
MaaSの発展が不動産価格に大きく影響を与える可能性がある3つの理由
ではなぜMaaSの発展が不動産価格に大きく影響を与えるのでしょうか。ここでは考えられる3つの理由を見ていきます。
①地方郊外への移住の促進
運転免許を持っていない、マイカーを持っていないなどの理由から、仕方なく駅近に住む必要のある方は多いでしょう。また移動の利便性の面からしても、駅近である都市部の需要が高いことは明白です。
しかし、MaaSが発展すればシームレスな移動が実現し、駅近でなくとも移動が容易になります。「Whim」の例でいえば定額制のプランに加入している場合、公共交通機関に乗り放題、かつタクシーもお得に乗車できます。またシェアサイクルやシェアカーも増えることで、移動手段の選択肢も拡大。そのため距離があっても駅に行きやすくなり、料金もお得になるのです。
つまり、MaaSが発展することで移動の利便性が住宅を決める際の必要条件ではなくなり、地方郊外への移住促進につながります。駅近物件は確かに便利ですが、賃料や価格が高い点がネックなポイントです。地方郊外に住めば生活固定費が下がるだけでなく、より広い物件に住むことができます。つまり移動の利便性を中心に物件を決める必要がなく、部屋や家自体の理想を優先して物件が探せるようになるのです。
これにより地方郊外物件の需要も増えることで、駅近物件との価格に極端な差が生じなくなるといえます。
②幹線道路の地価上昇
MaaSは移動の最適化だけでなく、都市を構成するさまざまな領域の課題解決手段としても活用できるものです。実際にヘルシンキでは環境汚染や渋滞問題の解消も目的として、MaaSが実用化されています。実はこれらの課題が解決につながることで、不動産価格も恩恵を受けます。
たとえば幹線道路沿いの物件は渋滞問題や騒音、排気ガスによる空気汚染が他のエリアよりも著しいことから、地価が低くなる傾向にあります。しかしMaaSが発展することで自動車の使用率が低下し、騒音解消や排気ガス排出の減少につながります。これにより幹線道路も通常のエリアと同じ環境条件となり、地価の上昇にも期待できるのです。
③モビリティサービス付帯不動産の販売
MaaSと不動産の親和性が高いことから、モビリティサービスが付帯した不動産が販売される可能性も考えられます。実例として三井不動産は、MaaSを付帯した不動産の実証実験を開始。千葉・柏の葉や東京・日本橋などの3地域で、三井不動産のマンションがある地域でのバスやタクシー、自転車を使える仕組みを検証しています。
9月中旬から実証実験が開始されている柏の葉では、住民30人に専用アプリを配布。約1ヶ月間、タクシー3,000円分やカーシェアリング72時間、バスとシェアサイクル乗り放題のサービスを無料で提供しました。
三井不動産はMaaSにより“移動の自由”を提供することで、街の魅力的なコンテンツへの気づきを促進し、街全体の魅力を底上げすることを目的としています。このようにMaaSのようなモビリティサービスを付帯した不動産を販売することにより、住民に利便性を提供できるだけでなく、不動産は新しい収益減の確保が実現するのです。
MaaSの発展に伴う今後の動向
日本ではまだMaaSは実証段階ですが、更なる発展を遂げることで「MaaS×不動産」の考え方が一般的になる可能性も考えられます。
MaaSは生活者の利便性を高めるだけでなく、都市が抱える課題解決や不動産事業者の新たなビジネス展開など、各方面に良い影響を与えてくれます。実証実験の効果やMaaSの発展、そして実用化が叶えば、不動産にMaaSを組み込むことは一般的な考え方となるでしょう。
また不動産価格においても、交通の利便性による極端な価格差が生じなくなり、地域差も今ほどではなくなると考えられます。さらに人々が理想のライフスタイルを実現するための選択肢が広がるだけでなく、不動産投資の面においても投資の幅が広がります。投資面でいえば、今やほとんどが首都圏や都市部の駅近物件において、利回りを期待している状態です。MaaSが発展すれば地方郊外の物件でも同じように利回りに期待できるようになるだけでなく、初期費用の低下により不動産投資に前向きになれる方が増えていくのではないでしょうか。
INA&Associates Inc.は、不動産、IT、投資などにおける専門性と技術を活かし、「不動産」×「IT」を実現するために発生する、複雑な事柄に真摯に向き合い、”不動産をもっと分かりやすく。住まいを探されている方にとってもっと使いやすく。取引をもっとスムーズに。” 不動産×ITで独自の価値をお客様に提供することを目指しています。
世界と国内の具体的なMaaS事例
最後に、世界と国内の具体的なMaaSの事例をご紹介していきます。
世界の事例
まずはMaaSのパイオニアであるフィンランドをはじめとした、4カ国のMaaS事例をお伝えします。
①アメリカ|UBER
アメリカでタクシー業界に大きな影響を与えているMaaSに、「Uber」があります。これは日本でも馴染みのある「Uber Eats」の大元です。
Uberは運転免許を持っている人がマイカーをタクシー代わりにして、利用者を目的地まで運ぶサービス。つまり運転手は運転免許とマイカーを持つ一般人なのです。Uberを利用するメリットは、タクシーよりも安く済むこと。道路の混雑状況によって値段は変動しますが、チップを含めてもタクシーの半額ほどの値段と言われています。
利用者はUberアプリさえ持っていれば目的地を入力して、近くにいる運転手の到着を待つだけです。一般人の車に乗るのは不安…という方もいるかもしれませんが、Uberの運転手は厳しい審査をクリアした人のみ。またドライブの質はスコア化されているため、評価をみれば安全な運転手であるかが明白です。運転手側も評価が低いと利用者がいなくなってしまうため、必然的にドライブや接客の質向上に努めます。
利用者は自分の現在地の近くにいる人をキャッチして目的地へと出向け、支払いもアプリに登録しているクレジットカードで一括対応可能です。まさに移動のシームレス化を体現しているMaaSの代表的な例といえます。
②フィンランド|Whim|Kyyti
MaaSのパイオニアでもあるフィンランドでは、首都ヘルシンキで実用化されている「Whim」、そしてトゥルク地域で展開されている「Kyyti」の2つのMaaSがあります。
「Whim」はMaaS先進国の事例としてご紹介した通り、個人の利用状況に合わせた料金プランから必要なサービスが選べるMaaSです。公共交通機関が乗り放題といった魅力的なサービスだけでなく、シェアサイクルやレンタカー、タクシー利用料無料など、プランに応じてさまざまなベネフィットがあります。ヘルシンキでは実用化に至っており、移動の最適化だけでなく、渋滞や環境汚染、高齢者への移動手段の提供など、さまざまな都市課題解決を目指しています。
一方もう1つのフィンランド発MaaSである「Kyyti」は、1つのプラットフォームに統合されたルートプランニングと、全ての移動手段における支払いと発見が可能な専用アプリです。「Whim」と同様に公共交通機関をはじめライドシェアやレンタカー、フェリーやレンタサイクルなどの移動手段を提供。さらにそれだけでなく、ユーザーの状況に最適かつ便利なトラベルスケジューリングの構築や、チケットの予約・決済が利用できます。
③ドイツ|moovel
ドイツのMaaS「moovel」は2015年に誕生。2018年にはユーザー数500万人を突破し、サービスが徐々に定着しています。
アプリ上での予約機能と支払い機能を備えており、都市の交通流を最適化するプラットフォームとして注目されています。Moovelではサービスを「アーバン・モビリティのオペレーティングシステム」と位置付けており、都市におけるモビリティの簡素化、そして人々のQOL向上に向けてサービスの発展を目指しています。
④中国| 滴滴出行
中国版Uberとして展開されているのが、中国のMaaS「滴滴出行」です。提携各社のタクシーをはじめ、一般人がドライバーを務める「合法白タク」の予約・配車・決済が一括対応できるサービスです。5つのランクから利用目的や人数、快適さなどに応じて、好きな車が選べます。
またUberと同じように、利用者がドライバーを評価するシステムを導入。そのため最安のプランを選んだとしても、悪質なドライバーに当たる心配はありません。さらにアプリ内では移動距離ごとの運賃も明記されるため、ぼったくりの被害も防げます。また万が一の事態に備えてワンクリックで警察へ通報できる機能も備わっているため、安心して利用できます。
国内の事例
海外ではベンチャー企業がMaaSを展開していることがほとんどですが、国内では不動産事業者が筆頭となっている事例が多く見られます。ここでは国内4つの事例をご紹介します
①三井不動産
頻出しているように、三井不動産ではMaaS導入の先駆けとして不動産と掛け合わせたサービスを展開しています。まだ実証実験の段階ですが、将来的に実用化される可能性は大いにあるでしょう。
三井不動産が提供するMaaSは単なる移動の最適化ではなく、街で暮らす人々に新たな体験価値を提供することを目的に、ヒト・モノ・サービスの移動に着目した「モビリティ構想」の1つです。画一的でなく、物件・地域ごとの特徴に応じた、最適なサービスパッケージを提供している点が最大の特徴です。
将来的には住宅に加え、商業施設やオフィスなどを含めてMaaSを提供し、コミュニティ間のつながりを強化した都市の活性化と付加価値向上を目指しています。
②東急不動産
東急不動産を含む7社は、東京都が公募した「MaaSの社会実装モデル構築に向けた実証実験」を受託。東京・竹芝エリアにおける移動の利便性向上を目指し、複数の公共交通機関を連携させたMaaSの実装に向けて実証実験を開始します。
竹芝エリアは東京都の「都市再生ステップアップ・プロジェクトの」1つとして、最先端テクノロジーを街全体で活用するスマートシティのモデルケース構築に向けて開発が進んでいます。業務棟と住宅棟からなる国際ビジネス拠点をはじめ、商業施設やラグジュアリーホテルの開業が予定されていますが、エリア内の公共交通が不足している点が課題となっています。その課題解消も含め、MaaSのような新たなモビリティサービスの実装を目指しています。
③京浜急行電鉄
京浜急行電鉄はscheme verge株式会社と合同で、三浦半島観光のDX推進の一環として、観光型MaaS「三浦Cocoon」を開始しました。
観光ブラットフォームとしての基盤整備を行うとともに、三浦半島地域の事業者や自治体、サポート企業など60団体による観光活性化コミュニティ「Coconn Family」を結成。これより半島全体で連携した観光コンテンツの開発を目指します。
参加団体が共通で利用できるWebプラットフォームや共通予約・決済システムなどの環境を整備し、観光客にワンストップな観光とシームレスな移動を提供できる環境作りが目的です。MaaS通して、観光DXの推進を目指す事例となります。
④ADDress
ADDressは、定額制で全国に住み放題となる多拠点コリビングサービスです。家を固定のモノとせず、サブスクリプションとして展開するユニークなアイデアが特徴。年契約のレギュラープランであれば月額4万円(税別)で、家具家電やアメニティーを完備した全国25拠点から好きな物件を選び、連続して1週間入居できます。
そんなADDressではMaaSに着目し、ANAやJR東日本グループと連携した「交通サブスク」の実現を目指しています。多拠点に住むということは、必然的に移動が必須です。そのため同時にシームレスな移動が提供できれば、全国に住み放題といったサービスがより活かせるようになります。MaaSが加わることで住居のサブスクが活性化し、街づくりのあり方だけでなく、人々の暮らしが大きく刷新される可能性を秘めています。
まとめ
今回は不動産価格とMaaSの関係をメインに、MaaSの今後の展望や国内外の事例をご紹介しました。
ICTの発達が進む中、生活をより快適で便利なものにするために、さまざまなサービスが誕生しています。MaaSはその1つであり、今後実用化されることで生活に大きな変化がもたらされるかもしれません。またMaaSのメリットは人々の生活を便利にするだけでなく、都市に関係するさまざまな課題解決の手段として活用できることです。現に今日本で課題となっている「高齢者の運転免許返納」も、MaaSにより移動の利便性が上がることで、解決に近づくかもしれません。
さらにMaaSは不動産価格においても大きな影響を与えるものであり、今後不動産のあり方や価格形成要因を刷新する要素となり得ます。これは不動産を借りる・購入する人だけでなく、投資をする人にとっても重要なポイントとなります。日本ではまだ発展途上であるMaaSですが、近い将来実用化される可能性は大いにあるでしょう。
ぜひ今回ご紹介した内容を踏まえて、今後の不動産の変化、そして街づくりや暮らしの変化にも着目してみてください。