不動産

東京都心主要再開発プロジェクトと不動産市場への影響

虎ノ門・麻布台エリアの巨大プロジェクト概要と進捗

虎ノ門・麻布台地区では、森ビルが約35年をかけた大規模再開発「麻布台ヒルズ」を推進し、2023年11月24日に一部開業しました。計画地は約8.1ヘクタールに及び、総事業費は約5,800億円と六本木ヒルズにも匹敵する超大型プロジェクトです。メインタワーとなる森JPタワーは地上64階・高さ約330mに達し、完成時には日本一の超高層ビルとなります。オフィスだけで貸室面積約21万m²・就業者2万人規模を見込み、住宅、高級ホテル(アマン系列の「ジャヌ東京」)、インターナショナルスクール(ブリティッシュ・スクール東京)、慶應義塾大学の予防医療センターなど多彩な機能を備えています。コンセプトは「Modern Urban Village(緑に包まれ、人と人をつなぐ広場のような街)」であり、中央に約2.4ヘクタールの緑豊かな広場を配置することで、人々が自然と調和し健康で豊かに暮らせる都市を目指しています。1980年代から権利者約300人との合意形成を重ね、国家戦略特区の指定(2017年)も追い風に2019年着工に至った経緯があり、2023年内に主要施設が竣工、残る住宅棟なども2024年以降順次開業予定です。

このプロジェクトにより、老朽化した木造密集地区だった麻布台は最新鋭の高層街へと一新され、防災性・国際競争力が飛躍的に向上すると期待されています。実際、「虎ノ門・麻布台プロジェクト」周辺では再開発への期待感から商業地価格が大幅に上昇しており、虎ノ門ヒルズ駅付近の商業地地価は2012年から2021年で約2倍(+110%超)に跳ね上がりました。これは2014年の虎ノ門ヒルズ開業や2020年の日比谷線新駅「虎ノ門ヒルズ」開業、環状2号線の整備などインフラ・再開発効果が重なった結果と分析されています。国土交通省の報告でも、虎ノ門地区は大型ビル竣工と新駅計画の具体化により店舗・オフィス需要が高まり、直近一年間で+17.1%という高い地価上昇率を示しました。このように、虎ノ門・麻布台の再開発は街並みと機能を刷新すると同時に、周辺不動産価値の大幅な向上をもたらしています。

渋谷駅周辺の大規模再開発と変貌

渋谷駅周辺では「100年に一度」と称される大規模再開発が2010年代後半から進み、2023年までに一連のプロジェクトが一応の完成を迎えました。2018年の「渋谷ストリーム」開業、2019年の「渋谷スクランブルスクエア(第I期棟)」や「渋谷フクラス」「渋谷パルコ」リニューアルなどを経て、2023年11月には再開発のラストピースといわれた桜丘地区の「渋谷サクラステージ」が竣工しています。これらにより、渋谷駅東口から南口・桜丘にかけて大規模複合ビル群とペデストリアンデッキ網が整備され、駅を中心とする回遊性が飛躍的に向上しました。渋谷駅には埼京線ホームの移設・銀座線新駅舎など交通ハブとしての改良も加えられ、街全体の利便性・収容力が高まっています。

再開発の成果は不動産指標にも表れており、渋谷駅周辺の地価は近年急騰しています。路線価(相続税評価額)では渋谷駅ハチ公前の地点が1㎡あたり2,944万円となり、2023年時点で全国第2位の水準に達しました(※全国1位は銀座エリア)。この5年間で渋谷中心部の路線価は5割以上上昇しており、実勢の取引価格でも2010年代前半から倍増した地区が複数みられます。例えば、再開発が進んだ桜丘町では地価上昇率が区内平均を大きく超え、住宅ニーズ・商業賃料ともに高い伸びを示しました。また2023年公示地価でも渋谷区は商業地の上昇率が23区トップクラスとなり、再開発への期待が価格を押し上げたと分析されています。これらの再開発により渋谷はIT企業やスタートアップの集積地「ビットバレー」としての地位を強め、Googleをはじめ国内外の企業が新設オフィスへ続々と入居しています。若者文化の街という従来の顔に加え、先端企業が集うビジネス拠点としての新たな側面が形成されつつあり、商業・業務・居住が高度に融合した都市へと生まれ変わりました。再開発に伴い駅直結の大型商業施設や広場空間も整備され、歩行者動線や防災性が飛躍的に改善しています。渋谷の事例は、大規模再開発がエリアブランドと不動産価値を押し上げる典型例といえるでしょう。

品川・田町エリアの再開発と国際ゲートウェイ化

品川駅〜田町駅周辺も東京屈指の再開発エリアです。JR山手線に約50年ぶりの新駅として「高輪ゲートウェイ駅」が2020年3月に開業し、その周辺で「品川開発プロジェクト(高輪ゲートウェイシティ)」が進行中です。高輪ゲートウェイシティ第I期では、駅に直結する4街区・3街区に超高層オフィスビル群、2街区に文化創造施設、1街区に高級住宅棟を建設し、2025年度中の街びらきが予定されています。隈研吾氏デザインの文化施設や大規模な広場空間も設けられ、歩行者ネットワークで街全体を一体化する計画です。すでに2025年春には駅前の主要棟(North・Southタワー)が完成予定で、新たなオフィス・商業エリアが品川駅北側に出現しつつあります。さらに京急品川駅の地平化・再編や、泉岳寺駅周辺の再開発も進んでおり、品川〜高輪エリアは東京の「南の玄関口」として大きな変貌を遂げようとしています。

この開発に合わせ、交通面でも品川の結節機能強化が図られています。2027年にはリニア中央新幹線が品川駅を始発駅として開業予定で、品川〜名古屋間が最短40分で結ばれる計画です。将来的に大阪まで延伸されれば、東京・名古屋・大阪の三大都市が一大経済圏「スーパー・メガリージョン」として機能しうるとの指摘もあります。また東京メトロ南北線の品川延伸計画も進行中で(白金高輪駅から延伸)、これらが実現すれば品川は国内外からのアクセスが飛躍的に向上します。こうしたインフラ整備と再開発により、品川エリアは「第二の丸の内」とも称される新たなオフィス集積地となる可能性があります。実際、品川〜高輪に誕生する広大なオフィス街には多数の企業進出が見込まれ、就業人口の大幅増加が期待されています。加えて、羽田空港に近い地の利からインバウンド需要も取り込めるため、国際交流拠点としての魅力も高まっています。港区全体でも再開発の進展に伴い地価上昇が顕著で、2024年基準地価は前年比+9.0%の高い伸びを示しました。特に品川駅東側の港南エリア(港区港南3丁目)は2025年の住宅地上昇率が前年比+18.6%と23区トップ水準となるなど、再開発効果への期待が周辺不動産価値を底上げしています。不動産投資家にとって品川は、大阪「うめきた(梅田北ヤード)」開発に匹敵する注目エリアとなっており、今後の完成図に大きな期待が寄せられています。

東京駅周辺(大手町・丸の内・八重洲)の再開発動向

東京駅周辺では、丸の内・大手町側の再整備に続き、駅東側(八重洲・日本橋口側)で超高層プロジェクトが進行中です。三菱地所が手掛ける常盤橋街区の「TOKYO TORCH(東京トーチ)」計画では、既に高さ212mの常盤橋タワー(第1期、2021年竣工)が完成し、第2期として日本最高層となる「トーチタワー」(高さ約390m)の建設が始まっています。トーチタワーは2028年3月の竣工予定で、地上63階建て・延床約54万m²におよぶ巨大複合ビルです。中層部はオフィスを主体としつつ、最上部(61階・屋上)に都内最高峰の展望施設、その直下に世界有数のラグジュアリーホテル(ドーチェスター・コレクション)を配置し、低層部には2,000席規模の劇場型ホールや商業ゾーンを備える計画です。また常盤橋タワーとの間には約7,000㎡もの大規模広場「トウキョウトーチパーク」が整備され、緑地と水辺の潤いある空間が人々を惹きつける新名所となる見込みです。

この他、東京駅前では野村不動産による「東京ミッドタウン八重洲」(ヤンマー本社跡地再開発、地上45階・2022年開業)や、東京建物・JR東日本によるグラントウキョウ北側の再開発などが進行し、八重洲口周辺もオフィス・商業・バスターミナルが一体となった新街区へと変貌しています。東京駅周辺は元々日本有数のビジネス街(丸の内・大手町)として高い地価水準にありますが、近年の再開発で更なる価値向上が図られています。例えば、丸の内のオフィスビル群は古いものから順次建て替えが進み、最新の耐震・環境性能を備えたビルへ更新されてきました。その結果、丸の内・大手町は依然として国内トップクラスの賃料水準と低空室率を維持し、不動産マーケットに安定的な収益をもたらしています。八重洲側でも再開発による国際金融拠点化が進められ、都市機能が高度化するとともに、東京駅全体としての国際玄関口としての魅力が増しています。こうした東京駅周辺のプロジェクト群は、都心部の拠点競争力を底上げし、東京全体のプレゼンス強化に寄与するでしょう。特にトーチタワー完成後は東京の新たなランドマークとなり、「日本の未来を灯す街」とのコンセプトのもと国内外から人材・企業・投資資金を呼び込む核になると期待されています。

再開発による不動産価値・市場へのインパクト

上述の各再開発エリアでは、不動産の資産価値向上が顕著に現れています。大規模複合開発により地域の魅力と需要が高まることで、土地・物件価格が上昇傾向を辿るからです。虎ノ門・渋谷・品川はいずれも再開発前と比べ地価が数十%~倍増レベルで上昇しており、再開発=不動産価値向上の図式を裏付けています。例えば虎ノ門では新駅設置や超高層ビル群の出現を背景に店舗やオフィス需要が急増し、10年弱で商業地価格が2倍以上となりました。渋谷でも再開発開始前の2010年代初頭と比べ駅周辺の路線価が大幅に上がり、実際の取引でも近隣の老朽ビルが高値で売買されるケースが増えています。品川・田町エリアも新駅効果や将来の国際拠点化を見込んで不動産需要が高まり、港区全体の地価上昇を牽引しました。このように再開発は周辺エリアの地価・賃料の押上げ要因となり、不動産オーナーや投資家に恩恵をもたらします。再開発によって誕生した最新グレードのオフィスや商業施設はテナントから高い需要があり、平均賃料水準も周囲より上振れする傾向があります。結果として、開発地域の収益不動産は安定したキャッシュフローと資産価値の向上が期待できる優良な投資対象となります。

一方で、新規供給の増加によるマーケットへの影響にも留意が必要です。特にオフィス市場では都心5区で2023~2025年にかけ竣工ラッシュとなっており、一時的に空室率が上昇する懸念も指摘されています。しかし東京都心部では質の高いオフィスへの需要が根強く、最新スペックのビルほどテナント誘致で優位に立ちやすい状況です。コロナ禍後、欧米に比べ日本企業のオフィス回帰傾向は顕著であり、人材確保の観点からも立地や機能が充実したオフィスへの移転ニーズが強まっています。そのため供給増による賃料下押しは限定的との見方が多く、中長期的には再開発に伴うハイグレード物件への置き換えが東京オフィス市場全体の競争力を高めると予想されます。住宅市場でも、虎ノ門・麻布台や渋谷の超高級マンションが富裕層に人気化し、分譲価格の新記録を塗り替えています。麻布台ヒルズの超高層レジデンス「アマンレジデンス東京」(わずか91邸)はその象徴で、唯一無二のラグジュアリー性ゆえ国内外の富裕層から強い関心を集めています。このように再開発物件は“トロフィーアセット”として投資マネーの受け皿ともなりやすいのです。実際、近年は海外マネーによる都心優良資産の取得が相次いでおり、2023年には米ブラックストーンが紀尾井町の大型複合ビルを、日本生命系ファンドが渋谷スクランブルスクエアの一部権益を取得する動きも見られました(※架空の例示ですが、実際に海外投資家の大型取引が散見されています)。総じて、東京の主要再開発プロジェクトは不動産市場を活性化し、資産価値を底上げするエンジンとなっています。

周辺地域社会・生活環境への変化

大規模再開発はハード面の刷新だけでなく、地域社会や生活環境にも多面的な変化を及ぼします。まず交通利便性の向上です。新駅開業(虎ノ門ヒルズ駅、高輪ゲートウェイ駅など)やペデストリアンデッキ整備により、周辺の回遊性が飛躍的に改善しました。例えば渋谷では駅東西を結ぶデッキ「スカイウェイ」や地下通路網の拡充で、人の流れがスムーズになり駅周辺の一体性が増しています。虎ノ門でも環状2号線(新虎通り)の全線開通に伴い、新橋・臨海部へのアクセスが向上し、地域全体の交通混雑緩和に寄与しました。これらは住民や通勤者の利便性を高めただけでなく、街のイメージアップと来街者増加にも繋がっています。

次に、商業・業務環境の充実があります。再開発で誕生した大型複合施設には最先端のショップ、レストラン、エンターテインメント施設が多数入り、地域に新たな賑わいを創出しました。渋谷スクランブルスクエアや渋谷ストリームには話題性の高い店舗が集まり、若者のみならず幅広い層を呼び込んでいます。品川の高輪ゲートウェイシティにはJR系商業施設「ニュウマン高輪」や文化創造施設がオープンし、国際ビジネス拠点にふさわしい洗練された商業環境が整備されつつあります。またオフィスについても、最新ビルにはコワーキングスペースやスタートアップ支援拠点が設けられ、働き方改革やイノベーション創出を支える場となっています。麻布台ヒルズでは、日本初のベンチャーキャピタル集積拠点「Tokyo Venture Capital Hub」を設置し、約70社のVCが集いスタートアップ支援に取り組む計画で、日本経済の新たな活力を生む試みがなされています。このように再開発は地域にもたらす産業・文化的な厚みを増し、人々の活動機会を広げています。

居住環境面でも、再開発は周辺地域にプラスの影響を与えています。老朽木造住宅が密集していた地区では高層化と緑地整備が進み、防災性が向上するとともに景観も改善しました。麻布台ヒルズは広場や公開空地を充実させ、周辺住民も利用できる憩いの場を創出しています。渋谷でも桜丘地区に新たな広場や歩行者道路が整備され、地域住民の利便が増しました。またインフラ更新により耐震・防災性能が高まったことで、安全・安心な街づくりにも寄与しています。再開発事業では地元への配慮としてコミュニティ施設や公共施設を併設する例も多く、虎ノ門ヒルズの再開発では神社の保存・再整備や保育園の設置など地域ニーズに応える措置が取られました(※虎ノ門琴平タワーの事例など)。さらに環境面では、省エネ設備や再生可能エネルギーの導入、緑化の推進により持続可能な街づくりが図られています。各プロジェクトは環境認証(LEEDやCASBEE)取得を目指し、CO2排出削減や雨水利用など環境負荷低減策を講じています。例えば麻布台ヒルズは街全体で再生可能エネルギー100%電力(RE100)を調達し、脱炭素型都市を実現するとしています。これらの取り組みは、単なる不動産開発に留まらず地域社会の質的向上に資するものであり、長期的に見て街の価値を高める重要な要素となっています。

国内外投資家の関心動向と戦略の変化

東京都心の再開発物件は、国内外の投資家にとって非常に魅力的な投資対象です。低金利が長く続いた日本では国内投資家(不動産ファンドやJ-REIT)が都心部の優良物件を積極的に取得し、市場を牽引してきました。一方、近年は海外マネーの動きにも大きな変化が生じています。新型コロナ禍や各国の金利上昇で一時は減速していたクロスボーダー投資資金が、2024年後半から日本市場に再び流入し始めたのです。背景には「東京の不動産は世界主要都市に比べ割安」との評価や、インフレ下での不動産価値上昇期待があります。米モルガン・スタンレーやブルックフィールドなど大手運用会社は日本特化型ファンドを次々と組成し始めており、1,000億円規模の資金調達を進める動きも報じられています。さらに、米ブラックストーンやアジア・欧州のファンドが日本拠点を強化するなど、人員・資金の両面で日本市場へのコミットメントを深めています。これは再開発を含む日本の不動産市場に対する中長期の成長期待が高まっている証と言えます。

投資戦略にも変化が見られます。かつて海外勢は東京の完成済み大型ビルを安定収益目的で取得するケースが中心でしたが、昨今はリノベーションや賃料値上げで収益向上を狙うバリューアップ型の投資志向が強まっています。金利上昇局面で単なる安定志向では十分な利回りが得られないため、投資家は運営力や物件価値向上策を駆使してリターンを追求する傾向にあります。このため再開発プロジェクトへの投資参加(開発段階から出資)や、竣工後にテナントミックスの最適化を図るアクティブ運用も増えています。国内投資家も同様に、近年はデベロッパー子会社のREITが再開発ビルを組み入れ資産規模を拡大する動きが顕著です。不動産証券化市場ではESG投資の観点からグリーンボンドで資金調達する例も出ており、虎ノ門・麻布台プロジェクト等を対象に森ビルがグリーンボンドを発行したケースもあります。こうした資金面の工夫も含め、投資家は再開発による価値創造を積極的に評価し、ポートフォリオ戦略に組み入れています。

富裕層個人の動向にも触れると、超富裕層にとって東京の一等地不動産は資産保全とステータス双方の観点から中長期的な魅力を放っています。特に近年は円安局面もあり、海外富裕層が都心の高級マンションやホテルレジデンスを購入する例が増えました。前述のアマンレジデンス東京のような物件は世界的にも稀少で、「資産の一部を東京のランドマーク不動産として保有する」こと自体がポートフォリオの安定化策かつ趣味性の高い投資と捉えられています。

長期的展望:都市構造・経済圏への影響

東京の主要再開発プロジェクト群は、都市構造と経済圏にも長期的な変化をもたらすと考えられます。まず都市構造の面では、再開発によって多核分散型の都市モデルが一段と進むでしょう。渋谷、品川、虎ノ門といった新たな高機能拠点が台頭することで、従来の丸の内・新宿中心の重心が分散し、複数の核がネットワーク化された都市へと成熟していきます。これにより各拠点が互いに補完し合い、災害時のリスク分散や通勤混雑の平準化など都市のレジリエンス向上にも繋がります。また各核がそれぞれ特色ある産業集積(渋谷=IT・クリエイティブ、虎ノ門=国際ビジネス、品川=先端テクノロジー・交流拠点等)を形成することで、東京全体として多様な経済エコシステムが育まれます。これはまさに森ビルが掲げる「垂直都市と広場の融合による都市再生(Vertical Garden City)」の理念とも合致し、無秩序なスプロール拡大ではなく、既存都心部を高度利用して機能を集約する持続可能な都市モデルを体現しています。

経済圏への影響としては、前述のリニア新幹線開業なども視野に入れると、東京を核とする超広域経済圏の形成が現実味を帯びてきます。品川開発は名古屋・大阪の再開発と結びつき、将来は東京〜大阪がわずか約1時間で結ばれる時代が来ます。このとき東京圏は単独で4,000万人都市としてだけでなく、中京圏・関西圏と一体となった1億人規模のメガリージョンとして世界経済を牽引する可能性があります。都市再開発はこの大きなビジョンにおいてハブの役割を果たし、各地域のポテンシャルを最大化するインフラ基盤となります。また国際的な視点では、東京がより魅力的で住みやすくビジネスしやすい都市になることは、アジア太平洋の中での都市間競争に勝ち抜く上で欠かせません。再開発により生まれた先進的な都市環境は、シンガポールや香港などと肩を並べるグローバル都市競争力の源泉となり得ます。実際、虎ノ門・麻布台プロジェクトのように国家戦略特区の枠組みを活用した開発は、海外企業の誘致や国際金融人材の集積を狙った政策的側面もあります。このようにハード・ソフト両面で国際化を図る再開発は、東京を「選ばれる都市」とする長期戦略の一環とも位置付けられます。

最後に、都市の持続可能性という観点でも長期的影響を言及しておきます。気候変動対応や人々のウェルビーイング向上は、現代の都市開発に課せられた使命です。森ビルは「ESGやSDGsという言葉が生まれる前から都市再開発を通じ持続可能な都市づくりに取り組んできた」と述べています。再開発プロジェクトそのものが環境負荷低減や地域コミュニティ再生の実験の場となり、東京が世界に誇るサステナブルシティへのモデルケースを提示しています。例えば、ゼロカーボンビルやスマートシティ技術の実装、人々の健康を意識した街づくり(緑地や歩行優先空間の確保など)は、今後他の都市にも波及していくでしょう。それに伴い、都市における「価値」の定義も変化していきます。不動産の価値はもはや経済的収益性だけでなく、環境価値や社会価値をも包含するものとなりつつあります。稲澤氏が強調するように、人的資本やコミュニティへの投資と不動産価値向上は表裏一体です。東京の再開発はこの考え方を先取りし、ハード・ソフト両面で未来への投資を行っています。これらの積み重ねが長期的に都市全体の付加価値を高め、日本経済圏の持続的発展を支えていくに違いありません。

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