心から突き動かされる仕事

皆さんは、仕事をしていて「これは自分の心からやりたいことだ」と強く感じた経験はあるでしょうか。あるいは、日々の業務の中で「もっとこうしたい」「この問題を放っておけない」と心が熱くなる瞬間があったかもしれません。心から突き動かされる仕事とは、まさに自分の内側から情熱や使命感が湧き上がり、行動せずにはいられなくなるような仕事のことです。ただお金を稼ぐためだけでなく、心が喜び、意義を感じられる仕事に出会えたとき、人は最大限の力を発揮できるものです。

私の視点から、「心から突き動かされる仕事」について考えてみます。

現場の声に心を動かされて

私自身、キャリアの中で心を強く揺さぶられる出来事に出会いました。大学卒業後に不動産ディベロッパーへ入社し、新規事業として分譲マンション事業の立ち上げに携わり、責任ある仕事にやりがいを感じながら邁進していました。しかし、現場で汗を流す日々の中で、次第にある現実に直面します。それは「どれほど一生懸命努力しても、正当に評価されず報われていない人が数多く存在している」という厳しい現実でした。

特に心に残ったのは、建築現場で出会った一人の職人の言葉です。長年建設に携わり卓越した技術を持つその職人が静かに語った言葉――「自分たちがどんなに頑張っても、結局は元請けの名前ばかりが評価され、現場の人間には光が当たらないんですよ」――に、胸は強く揺さぶられました。その言葉には、報われない現状への悔しさと諦めがにじんでいました。私は返す言葉もなく悔しさを噛みしめ、現場を支える人々が正当に評価されない不条理を目の当たりにして、胸の内に怒りにも似た熱い感情が込み上げてきました。

この経験を通じて、「頑張る人がきちんと報われる社会を実現したい」という強い想いが芽生え、それが確固たる信念へと変わっていきました。まさに私にとってこの瞬間が、心から突き動かされる仕事=「あらゆる人が正当に評価され報われる仕事」への原点だったのです。

しかし、こうした志を実現する道のりは平坦ではありません。所属している組織の中で改革を起こすには限界があり、次第に「自らが主体となって新たな仕組みを作るしかない」と考えるようになります。

とはいえ、安定したキャリアを手放して独立・起業することには大きな不安が伴いました。家族や周囲から反対もあり、「自分に本当に経営が務まるのか」と葛藤する日々も続きました。

そんな折、尊敬する上司からかけられた一言が彼の背中を押しました。それは「志があるなら、それを実現する舞台を自分で作れ。リスクを恐れていては何も変えられない。」という力強い助言でした。その言葉に胸を突かれ覚悟を決めます。「自分の信じる理想を形にするためには、リスクを背負ってでも一歩踏み出す価値がある」と確信し、心から突き動かす想いに従って行動を起こす決意を固めたのです。こうして彼は同じ志を持つ仲間たちとともにINA&Associates株式会社を創業し、「努力が正当に評価され、報われる仕組み」を社会に創り出すという挑戦へと踏み出しました。

この体験は、「心から突き動かされる仕事」が持つ力を物語っています。強い想いから生まれた使命感は、不安や困難を乗り越える原動力になります。そしてその原動力があるからこそ、新たな価値を生み出し周囲を巻き込みながら前進できるのです。

「心から突き動かされる仕事」とは何か

このエピソードからも明らかなように、「心から突き動かされる仕事」とは自分の内なる情熱や信念が源泉となっている仕事と言えます。それは単に好きだから楽しいというレベルを超え、「これだけは自分がやらねば」と使命感を感じる仕事です。こうした仕事に取り組むとき、人は多少の困難にぶつかっても諦めずに創意工夫を凝らし、乗り越えようとします。なぜなら外的な要因(報酬や肩書き)以上に、内側から湧き上る動機づけが強いからです。

心から突き動かされる仕事の特徴を整理すると、以下のような点が挙げられるでしょう。

  • 価値観や信念に根差している: その仕事が自分自身の大切にしている価値観(正義感、創造性、思いやりなど)や人生観と深く結びついている。
  • 社会的な意義や目的を感じられる: 単なる作業ではなく、「誰かの役に立っている」「社会をより良くしている」といった意義を見出せる。
  • 没頭と継続性: やらされている感覚ではなく自発的に没頭でき、多少大変でも「もっと良くしたい」と継続的に取り組める。
  • 周囲への良い影響: 自分が熱意を持って働くことで周囲にも刺激や共感を与え、人の輪が広がったり協力者が現れたりする。

私の場合は、「正当に評価されない人々を放っておけない」という強い正義感と共感が原動力となりました。

皆さんにとっては、それぞれ異なるテーマや分野が心を突き動かすきっかけになるでしょう。大切なのは、自分の心が何に反応し、何に喜びや怒りを感じるのかを見極めることです。

仕事を選ぶ際の具体的な考え方とアクション

では、実際に自分が「心から突き動かされる仕事」を見つけたり選んだりするためには、どのような考え方や行動が有効でしょうか。私の経験も踏まえつつ、読者の方が実践しやすいポイントをいくつか挙げてみます。

  1. 自分の情熱の源を振り返る: まずはこれまでの人生や仕事の中で、心が大きく動かされた瞬間を思い出してみましょう。嬉しくて仕方なかった経験、理不尽に憤りを感じた出来事、夢中で取り組んだプロジェクトなどを振り返ると、自分が何に価値を感じるかが見えてきます。「なぜそれに心を動かされたのか?」を問い、自分の価値観や信念を書き出してみると良いでしょう。
  2. 仕事の目的に注目する: 転職先や職種を選ぶとき、給与や待遇だけでなく「その仕事を通じて何を実現できるか」に注目してみてください。その会社や職種が持つ使命やビジョンは、自分の心の琴線に触れるものかどうか。企業の理念や事業内容を調べ、自分の求める意義と重なる点があるか確認しましょう。例えば私は「あらゆる人が正当に評価され、報われる社会を作る」という目的意識を軸にキャリアを選択しました。自分が共感できる目的を掲げている企業や仕事は、長期的なやりがいにつながります。
  3. ロールモデルやメンターに相談する: 私が上司の言葉で勇気づけられたように、信頼できる先輩や上司、メンターに自分の想いを話してみるのも有効です。自分では不安に思って踏み出せない一歩も、第三者の視点や励ましによって踏み出せることがあります。「〇〇の分野に挑戦してみたい」「△△の問題を解決する仕事がしたい」と周囲に伝えることで、具体的なアドバイスや新たな情報が得られるかもしれません。身近にロールモデルとなる人がいれば、その人のキャリアを参考に自分の軸を再確認するのも良いでしょう。
  4. 小さくても一歩を踏み出す: 心が突き動かされるテーマが見つかったら、いきなり大きく転身するのが難しくても構いません。関連するプロジェクトに手を挙げて参加してみる、副業やボランティアで関わってみる、勉強会に参加するなど小さな一歩を踏み出してみましょう。実際に行動してみると、自分の熱意が本物かどうか、日々その分野に関わることに喜びを感じられるかを確かめることができます。行動する中で出会った人との縁が、新しいチャンスを運んでくることもあります。
  5. リスクを恐れすぎない: 新しい分野への挑戦や転職には不安がつきものです。しかし、私に影響を与えた「リスクを恐れていては何も変えられない」という言葉が示すように、現状を変えるには多少のリスクは避けられません。大切なのは綿密な準備と計画をしつつも、完璧に状況が整うのを待ちすぎないことです。心の声に正直に、一歩を踏み出す勇気を持ちましょう。失敗しても学びがありますし、情熱が本物であれば軌道修正しながら前進できます。

以上のようなステップを踏むことで、自分にとって「これだ」と思える仕事や働き方に近づけるはずです。ポイントは、頭だけで考えるのでなく自分の心と対話すること、そして考えがまとまったら行動に移すことです。小さな行動の積み重ねが、やがて大きな転機につながるでしょう。

INAの理念と経営への反映

私が心に宿した「頑張る人が正当に評価され報われる社会を創りたい」という信念は、INAの企業理念にも色濃く反映されています。INAのミッションは、「人間的想像力と最先端のテクノロジーを融合させ、すべての人が正当に評価され、報われる社会を実現する」ことです。つまり、一人ひとりが環境や経歴に左右されずに能力を発揮し、正当な評価を受け取れるような社会を目指しています。このミッションそのものが原体験から生まれたものと言えるでしょう。

では、その理念は具体的にどのように経営に落とし込まれているのでしょうか。同社の取り組みを例に挙げながら説明します。

  • 人を「財産」と捉えた経営: INAでは、人材のことをあえて「人財(人は企業にとって財産)」と呼び、人の成長を何より重視しています。社員一人ひとりが成長し能力を高められるよう、情報共有制度の充実やチャレンジを奨励する社風づくりに力を入れています。これは「人こそが企業価値の源泉である」という理念の表れであり、社員がやりがいを持って働ける環境づくりにもつながっています。
  • 公平で透明性の高い仕組み: 不動産業界では従来、元請け・下請けの多重構造により現場の人に正当な評価や利益が届きにくい課題がありました。私はそれを変えるため、ビジネスモデルにおいて透明性と公平性を徹底しています。たとえば、物件の賃貸管理業務では最新のITを活用して業務効率を上げ、中間マージンを圧縮することで、オーナー様にも協力会社にもメリットが行き渡る仕組みを構築しています。また、工事や管理に携わるパートナー企業とは密に連携し、成果に応じて適切な報酬と評価が得られる関係を築いています。こうした仕組みにより、現場で汗を流す人たちにも光が当たるよう配慮しています。
  • 機会の平等と人財活用: 地域や環境に関わらずチャンスが平等に与えられる社会を目指すという理念から、INAでは地方の人財を積極的に活用する戦略を取っています。地方には優秀でありながら地元に機会が少ない人々がいます。INAは、そうした人材をリモートで都市部の物件管理などに参画させる仕組みを整えています。遠隔勤務やオンラインシステムを駆使することで、場所にとらわれず活躍できる場を提供し、地方と都市の格差是正にも貢献しています。このように、環境の違いによって可能性が制限されないような経営の在り方は、INAの理念そのものと言えるでしょう。

このように企業理念を具体的な経営施策に落とし込むことで、INAは「心から突き動かされる想い」を単なる理想で終わらせず、現実のビジネスの中で体現しています。私自身が感じた課題に真正面から取り組むことで、社員にも社会にも良い循環を生み出そうとしています。

心が求める道へ

私とINAの取り組みは、「心から突き動かされる仕事」が持つ力と意義を示しています。強い想いから始まった行動は、やがて周囲を巻き込み、企業の理念となり、具体的な形を伴って社会に影響を与えるまでに至りました。このように、自分の心に正直に従った仕事の選択や行動は、決して自己満足で終わるものではなく、他者の共感を呼び、大きな波及効果を持ち得るのです。

皆さんも、自分の胸の内にある情熱や「これだけは譲れない」と思う信念に耳を傾けてみてください。日々の忙しさの中で埋もれてしまっているかもしれませんが、心の声に気づいたとき、それを大切にすることがキャリアにおいてとても重要です。たとえ今すぐ大きな転職や起業といった決断をしなくとも、自分の心が求める方向へ少しずつ歩み始めることが将来の大きな変化につながります。

最後に、この歩みから学べるのは「共感と勇気」の大切さです。自分の想いに共感してくれる仲間や理解者はきっと周囲にいます。そして、その共感が得られたなら、あとは一歩踏み出す勇気です。心から突き動かされる仕事に出会うためには、自らも心を開き、動くことが欠かせません。情熱に突き動かされた人の姿は周りにも伝播し、新たな協力者や機会を引き寄せるものです。

あなたがもし今、「このままでいいのだろうか」「本当にやりたいことは他にあるのではないか」と感じているなら、ぜひ自分の心と対話する時間を持ってみてください。そして、小さくても構いません、一歩を踏み出してみましょう。その先には、きっと今までにないやりがいと充実感に満ちた世界が広がっているはずです。心から突き動かされる仕事を見つけ出し、それに挑戦することこそが、人生を豊かに彩る原動力になるのです。あなたの情熱が道を照らし、未来を切り拓いていくことを信じています。

稲澤 大輔

稲澤 大輔

INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。

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