企業を経営していると、常に成果を求められる中で「失敗してはいけない」というプレッシャーが生まれがちです。多くのビジネスパーソンも、「失敗すれば評価が下がるのではないか」「周囲に迷惑をかけてしまうのではないか」といった不安から、挑戦を躊躇してしまうことがあるでしょう。実際、「失敗できない」という意識が強すぎると、新しい挑戦自体を避けてしまい、せっかくの成長機会を逃してしまうことさえあります。しかし、INAではあえて「失敗を恐れない文化」を大切にしています。私たちは、挑戦の先には失敗がつきものだという前提に立ち、むしろ失敗から多くを学べると信じているからです。
本コラムでは、INAがどのように「失敗を恐れない文化」を育んでいるのか、その具体例や仕組みをお伝えします。
失敗を前提に挑戦を促す文化
私自身、経営者としてこれまでに数多くの失敗を経験してきました。その度に痛感したのは、失敗そのものの有無よりも、そこから何を学び次にどう活かすかが何倍も重要だということです。例えば創業まもない頃、ある新規サービスの立ち上げにおいて期待した成果が出せず、悔しい思いをしたことがありました。しかし、その失敗を通じて得られた顧客ニーズへの洞察が後のサービス改善につながり、結果的に事業成長の礎となったのです。こうした経験から、私は失敗を単なるマイナスではなく成功へのプロセスだと捉えるようになりました。創業から今日に至るまで、その想いを軸に組織文化を築き上げてきた結果、今では社内の隅々にまで「失敗を恐れない」精神が根付いていると感じます。
また、一般的に日本企業ではミスや失敗を極力避けようとする風潮がありますが、そのような環境下では新しい挑戦や創造的な発想が生まれにくいとも感じます。だからこそINAでは、失敗を前提にしてでも積極的に挑戦することを推奨し、社員が伸び伸びとチャレンジできる文化を醸成することに努めているのです。
具体的に、INAが社内で強調しているのは「挑戦の裏には失敗があるのが当たり前」という考え方です。新しいことに挑む以上、失敗は避けられないものであり、その失敗を恐れて挑戦を諦めてしまっては成長もイノベーションも生まれません。INAでは社員一人ひとりに「思い切ってやってみよう」という精神を浸透させるため、たとえ結果がうまくいかなかったとしても挑戦したこと自体を評価する仕組みを取っています。たとえ結果に結びつかなかった試みであっても、そのチャレンジ精神に対して称賛を送り、次の挑戦への意欲を後押ししています。
例えば、新規事業のアイデア提案やプロジェクトへの取り組みにおいて、通常であれば成功の確度が高い計画しか承認されないという雰囲気があるかもしれません。しかしINAでは、成功の確信が持てない大胆なプランであってもまずはやってみることを推奨します。仮に10の挑戦のうち9が思うような成果に至らなくても、1つでも大きな成功が生まれればそれで良いのですし、残りの9つも無駄にはなりません。なぜなら、そこから得られた教訓や新しい発見が、次の挑戦の糧になるからです。もちろん、無計画にリスクを取るのではなく、まずは小さく試して素早く検証する工夫も怠りません。失敗してもダメージが大きくならない範囲で挑戦し、上手くいけば拡大し、うまくいかなければ軌道修正するという柔軟なアプローチを心がけています。
また、失敗が起きた際には、それを隠したり責めたりするのではなく、チーム全体で共有し振り返る文化があります。管理職やリーダー自身が過去の失敗談をオープンに語り、「自分たちも失敗を重ねてきた」という姿勢を示すことで、部下や新人社員も安心してリスクのある仕事に飛び込むことができます。全てが予定通りに進み常に成功しているようでは、むしろ挑戦が足りない——それくらいの覚悟で私たちは日々の業務に取り組んでいます。そして、社員全員がリスクを恐れず行動できる土壌があるからこそ、革新的なアイデアやサービスも社内から生まれやすくなっています。
失敗から学べる環境づくりの仕組み
「失敗を恐れない文化」を根付かせるためには、単に心構えを説くだけでなく、社員が実際に失敗から学べる仕組みを整えることが重要です。INAでは以下のような取り組みを通じて、社員が安心して挑戦し、失敗から成長できる環境づくりに力を入れています。
- 定期的な振り返りと対話の場:プロジェクトや業務の節目ごとにチームで振り返り会を実施し、上手くいかなかった点や想定外の課題を率直に共有します。ここでは「何がダメだったのか」を責めるのではなく、「次にどう活かすか」を皆で考える場としています。
- 失敗事例の共有とナレッジ化:社内ポータルで、過去の失敗事例とそこから得られた教訓を共有します。他部署で起きたミスやトラブルについてもオープンに情報共有し、組織全体で同じ過ちを繰り返さないようナレッジを蓄積しています。
- 心理的安全性の高い職場風土:上司や先輩が部下のチャレンジを見守り、万が一問題が起きても頭ごなしに叱責しないという約束事があります。ミスを報告したり相談したりしても不当に評価を下げられないという信頼感が、社員同士の心理的安全性を高め、失敗から学ぶための率直な議論を可能にしています。
- 挑戦を後押しする評価制度:社員の評価においては結果の成否だけでなく、その人がどれだけチャレンジングな目標に取り組んだか、創意工夫をしたか、といったプロセスも重視しています。たとえ成果が出なかった場合でも、挑戦した姿勢や得られた学びを正当に評価し、次のチャレンジへの意欲につなげています。
- 失敗から学ぶ教育:社員研修やOJTにおいて、失敗事例から学ぶプログラムを積極的に取り入れています。これにより、新入社員も失敗を過度に恐れず前向きに挑戦するマインドを養うことができます。
なお、自由に意見や失敗を言い合える心理的安全性の高い職場がチームのパフォーマンスを向上させることは、Google社の研究結果などでも明らかになっています。世界の先進企業でも、社員が失敗を恐れず挑戦できる環境づくりに注力しており、INAもまさに同様の信念のもとで組織運営を行っています。
なお、このような文化を根付かせるには時間もかかります。当初は失敗談を共有することに戸惑う社員もいましたが、自らの失敗例を積極的に話すことで、少しずつ「話しても大丈夫なんだ」という雰囲気が醸成されていきました。今では、ミーティングで率直に課題を議論し合うことが当たり前になり、互いの経験から学び合う土壌ができています。
例えば、あるプロジェクトで小さな不具合が発生した際、担当者はすぐにそれを上司に報告し、チーム全体で迅速に対処できたという出来事がありました。失敗を責められる心配がないため、問題を隠さず早期に解決策を講じられたのです。このように、ミスの芽を早期に摘み取り次につなげられることも、心理的安全性の高い文化がもたらす大きなメリットと言えるでしょう。
これらの仕組みによって、社員は失敗を過度に恐れることなく思い切った挑戦ができるようになります。重要なのは、失敗した事実自体ではなく、そこから何を学び次にどう活かすかです。INAでは組織全体でその考えを共有し、日々の業務に落とし込んでいます。
おわりに
「失敗を恐れない文化」は、社員個人の成長だけでなく、企業全体のイノベーションと発展にも直結しています。私たちは人の成長こそが企業の価値を生み出すと信じており、その成長の過程で避けて通れない失敗をポジティブに捉えることで、組織として大きな力に変えていきたいと考えています。要するに、失敗を自分の限界ではなく成長へのステップと捉えるマインドセットを、組織全体で共有しているのです。
もちろん、私たちは成功を目指していますが、だからと言って失敗を過度に恐れるべきではありません。無謀な挑戦を推奨しているわけではなく、十分に準備した上で挑戦し、それでも起こり得る予想外から柔軟に学ぶ姿勢を重視しているのです。言い換えれば、同じ失敗を繰り返さないための工夫は怠らず、それでいて未知の領域に果敢に踏み出す勇気を評価しています。そして、失敗を恐れるあまり何もしないことこそが最大の失敗だと捉えています。社員一人ひとりが安心して大胆にチャレンジできる環境を整え、その挑戦から得られた学びを次に活かしていく——そうしたサイクルを回し続けることが、INAの強みであり、これからの成長の原動力になるでしょう。
古くから「失敗は成功の母」という言葉がありますが、まさにINAでは失敗こそが成功への糧であるという信念のもと、社員のチャレンジをこれからも支えていきます。今後も失敗を恐れずに新たな挑戦を続け、社員と会社が共に成長し続ける文化をさらに深化させていきたいと思います。
