はじめに
「人材」を「人財」すなわち企業の重要資本と捉え、従業員への投資を企業価値向上の戦略とする動きが強まっています。実際、日本では2023年4月から上場企業約4000社に対し、人的資本(従業員)に関する情報開示が義務化されました。これは企業にとって従業員戦略が経営の重要課題であることを示す象徴的な出来事です。人に投資することがどう企業の成長に結びつくのか、本稿では理論と実践の両面から考察します。
人財投資がもたらす三つの効果
人財への投資が企業にもたらす効果は大きく分けて三つあります。
- イノベーション創出: 教育研修やスキル開発に投資された従業員は、新たな知識やアイデアを持ち寄り、企業内でイノベーションを起こしやすくなります。多様なスキルセットと学習文化を備えた組織では、新規事業の立ち上げや業務改善のスピードが飛躍的に高まります。
- 生産性向上: 従業員が十分な訓練と適切なツールを与えられることで、日々の業務効率は大きく向上します。また、従業員が自ら成長を実感できる環境はモチベーションを高め、結果として業績にも好影響を及ぼします。実際、従業員のエンゲージメント(仕事への熱意)が高い組織では収益性が21%向上するとの報告もあります。
- 定着率・採用力の向上: 社員を大切にし成長を支援する企業風土は、優秀な人材の流出を防ぎます。反対に成長機会の乏しい企業では社員が停滞感を感じ、転職による流出リスクが高まります。人財に投資する企業は「ここで働き続けたい」という愛社精神を育み、結果として採用市場でも魅力的な職場として評価されます。
これら三つの相乗効果により、人への投資を怠る競合他社と比べて高い競争優位を築くことが可能になります。例えば、米国の「働きがいのある会社100」に選ばれるような企業群は、そうでない企業に比べ株式パフォーマンスが約3.7倍にも達するという分析があります。従業員を「資本」と見なし真摯に向き合うことが、長期的に見て会社を強くする最善の戦略の一つと言えるでしょう。
INAの取り組み

INAでは、「人財投資カンパニー」を標榜し、創業以来以下のような人財投資の取り組みを行ってきました。
- キャリア支援制度: 社員一人ひとりのキャリア目標に応じて、資格取得補助や外部研修への参加支援を行っています。たとえば不動産鑑定士や宅地建物取引士など専門資格の取得を奨励し、受験費用や講習費用を会社が負担しています。これにより社員の専門性が高まり、提供サービスの質向上にも直結しています。
- メンター制度とOJT: 新入社員や若手社員には必ず経験豊富なメンターが付き、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で実践的な指導を行います。現場で培ったノウハウが継承されることで、組織全体のスキルレベル底上げが図られています。
- 評価と報酬の連動: 人財への投資は教育だけでなく、公正な評価と適切な報酬によっても実現されます。当社では単なる売上数字だけでなく、社員同士が互いの成長を支援し合う風土を醸成し、成果を正当に分配することで、安心して挑戦できる職場環境を整えています。
成長事例と成果
人財投資の効果は、INAの成長実績にも表れています。創業から数年で従業員数は当初の数倍に増加し、事業規模も拡大しました。こうした成功体験は他の社員にも良い刺激となり、「自分も挑戦し成長しよう」という前向きな空気を生み出しています。
例えば現在の社員のほとんどは異業種からの転職がほとんどであり、社内育成した社員が主流を占めており、外部から新たに高額な人材を招へいしなくとも組織拡大に対応できています。人財投資は内部昇進の機会を増やし、組織に一体感と継続性をもたらしています。「従業員満足なくして顧客満足なし」という言葉がありますが、まさに人財への投資が顧客への価値提供強化につながり、企業の業績拡大を下支えしていると実感しています。
おわりに
人財に対する投資は一朝一夕で成果が現れるものではありません。しかし、長期的視点に立って社員の成長を支援し続ける企業は、確実に強固な基盤と持続的な成長力を手に入れます。人をコストではなく資産と捉える考え方は、これからの経営の主流になるでしょう。皆さんの職場では、社員一人ひとりの成長にどのように向き合っていますか?人財への投資がもたらすポジティブな連鎖を信じ、共に未来の成長を描いていきましょう。今後、人財への投資が企業文化として根付く企業が増えることで、より多くの組織が持続的成長の軌道に乗ることを期待しています。社員の成長が会社の未来を創る──その信念を胸に、私たちも引き続き人財への投資を惜しまず取り組んでまいります。
