2025年3月、不動産業界は技術革新の波に大きく揺れ動いています。AIやIoT、ブロックチェーンといった先端技術が不動産業の在り方を根本から変えようとしている今、私たちは単なる「デジタル化」を超えた本質的な変革の時を迎えています。INA&Associates株式会社の代表取締役の稲澤大輔です。創業5周年を迎えた今、不動産業界のデジタル変革と「人の価値」について、私の考えを共有させていただきます。
デジタル変革が迫る不動産業界の現実
不動産業界は長い間、対面取引や紙ベースの契約、経験則に基づく価格査定など、アナログな手法を大切にしてきました。この伝統的なアプローチには確かに価値がありましたが、社会のデジタル化が急速に進む中で、私たちもまた変革を迫られています。
不動産業者の役割は、単なる「情報の仲介者」から「価値の創造者」へとシフトしています。これは私が常々感じてきた変化です。
以前は物件情報を持っているだけで価値がありましたが、今やインターネット上で誰でも膨大な物件情報にアクセスできる時代となりました。不動産ポータルサイトの充実により、かつては不動産会社にしかなかった情報が広く一般に公開されるようになり、情報の非対称性は大きく減少しています。
さらに、AIを活用した価格査定システムにより、物件価格の精度も飛躍的に向上しています。従来の査定は過去の事例や経験則に頼る部分が大きかったですが、現在ではAIが市場データをリアルタイムで分析し、周辺環境や需要動向を反映した精緻な査定が可能になっています。このような変化は、業界の透明性を高める一方で、私たち不動産プロフェッショナルに新たな価値提供を求めているのです。
テクノロジーによる業務変革の現実
私がINAを創業した2020年は、偶然にもコロナ禍と重なりました。未曾有の困難の中、私たちは発想を転換し、オンラインでの商談や内見にいち早く取り組みました。物件のVRツアーやリモート契約手続きなど、当時はまだ珍しかった技術やサービスを積極的に導入したのです。
この経験から学んだことは、テクノロジーは単に「便利なツール」ではなく、ビジネスモデル自体を変革する力を持っているということです。
不動産業界におけるデジタル変革(DX)は、業務効率の向上と顧客満足度の増大を主な目的としています。煩雑な事務作業をデジタル化することで、私たち不動産のプロフェッショナルは、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。AIによる契約書の自動作成や、チャットボットによる初期対応など、定型的な業務はどんどん自動化されていくでしょう。
人間にしかできない価値提供とは何か
テクノロジーの進化によって自動化できる業務が増える中、私たちは「人間にしかできない価値」とは何かを改めて問い直す必要があります。答えは明快です。それは「共感する力」「創造する力」「信頼関係を築く力」です。
AIは膨大なデータを分析し、過去のパターンから最適解を導き出すことはできます。しかし、お客様の言葉にならない願望や不安を感じ取り、人生の重要な決断に寄り添うことはできません。「家」は単なる物理的な建物ではなく、夢や希望、安心、家族の記憶といった情緒的な価値を持ちます。この感情的側面を理解し対応できるのは、今のところ人間だけです。
私は長年、不動産業界に身を置く中で、現場で一生懸命努力しているにもかかわらず、正当に評価されずに報われていない人たちを多く目にしてきました。特に建築業界や不動産管理業界では、多層的な元請け・下請け構造により、現場で努力している人々の貢献が見えづらくなっていたのです。こうした課題意識から、「頑張っている人がきちんと報われる社会を実現したい」という強い想いを持ち、INAを設立しました。
デジタル変革は、私たちのこの理念を実現する強力な手段となります。テクノロジーによって業務効率が向上することで、私たちはより多くの時間と労力を「人ならではの価値創造」に投入できるようになるのです。
AIと人間の共創が生み出す新たな価値

AIと人間は対立するものではなく、互いの強みを活かし合うパートナーとなるべきです。例えば、AIによる物件マッチングシステムは、顧客の希望条件や行動履歴を分析し、最適な物件を提案することができます。これにより、私たち不動産のプロフェッショナルは、お客様との対話の質を高め、より深い理解に基づいたコンサルティングに注力できるようになります。
重要なのは、これらのテクノロジーを「人間の代替」ではなく「人間の能力拡張」として捉えることです。AIやIoTは、私たちが持つ創造性や共感力を最大限に発揮するための土台となります。
人材育成の重要性:デジタル時代の「人の価値」
デジタル変革が進む中で、不動産業界の人材に求められるスキルセットも大きく変化しています。テクノロジーの知識やデータ分析能力はもちろん重要ですが、それ以上に価値があるのは、変化に適応する柔軟性と学び続ける姿勢です。
当社では、単なるテクニカルスキルだけでなく、お客様との対話力や共感力、創造的思考力を兼ね備えた人材の育成に力を入れています。地域の雇用創出と業務効率化の両立を実現する取り組みでは、地方に眠る人財と都市部のニーズを結びつけるプラットフォーム作りに注力しました。これは「すべての人が輝き報われる社会」への一歩だと考えています。
2022年の調査によれば、98.4%の不動産会社がDXを推進すべきだと回答しています。しかし、技術だけが先行し、それを使いこなす人材の育成が追いついていないケースも少なくありません。テクノロジーはあくまで手段であり、中心にいるのは常に「人」です。どんなにデジタル化が進んでも、人間同士の信頼関係や温かみは決して色褪せることはないのです。
変革の時代における使命と展望
不動産業界は今、大きな転換期を迎えています。テクノロジーの進化や社会構造の変化に伴い、従来の常識が通用しなくなる場面も増えてきました。しかし、私はこうした変化を前向きに捉えています。
DXによって業務効率が向上し、より付加価値の高い業務に集中できるようになることは、私たちの創業理念である「努力が正当に評価され、報われる仕組みを創る」ことにつながります。テクノロジーは、私たちが目指す「すべての関係者の幸せを追求する」という理念を実現するための強力な味方なのです。
不動産業者の未来は、DX化によって「終わる」のではなく「生まれ変わる」ものだと確信しています。テクノロジーを積極的に活用し、顧客の期待を超えるサービスを提供することで、私たちは新たなステージへと進化することができます。この変革の波に乗り遅れることなく、むしろ先頭に立って業界を牽引することが、私たちINAの使命です。
人間とテクノロジーの共創によって、より透明で、公正で、人々にとって身近で頼れる不動産業界を創り上げていきましょう。そして何より、この変革の中心にいるのは常に「人」であることを忘れてはなりません。デジタル変革は目的ではなく、私たちが目指す「誰もが輝ける社会」を実現するための手段だと考えています。
