海外リアルターと日本の不動産営業の違い|社会的地位・報酬体系・法的仕組みを徹底比較

なぜ海外の不動産エージェントは「先生」と呼ばれるのか?

不動産業界に身を置く中で、お客様から「海外の不動産エージェントは、フリーランスのように自由に見えるのに、なぜ特定の会社に所属しているのですか?」というご質問をいただくことがあります。

また、映画やドラマで描かれる彼らの姿は、高収入で社会的地位も高く、まるで「先生」のように顧客から絶大な信頼を得ているように見えます。

一方で、日本の不動産営業に対しては、残念ながらいまだに「ノルマが厳しそう」「強引な営業をされそう」といったイメージが根強く残っています。

この両者の間には、一体どのような違いがあるのでしょうか。

その背景には 法律、報酬体系、そして顧客に対する責任の在り方 という、3つの根本的な構造の違いが存在します。

本記事では、INA&Associates株式会社の代表として、海外のリアルター(不動産エージェント)と日本の不動産営業の仕組みの違いを分かりやすく解説いたします。

この記事を通じて、不動産業界の構造的な違いをご理解いただき、皆様が不動産取引を考える上での一助となれば幸いです。

海外リアルターはなぜ会社に所属するのか?

海外のリアルターが特定の不動産会社(ブローカー)に所属する最大の理由は、法律によってそのように義務付けられているから です。

特にアメリカやカナダでは、不動産取引のライセンスが階層化されており、個人のエージェントは必ず上位資格者である「ブローカー」の監督下で活動しなければならないと定められています。

この「親分・子分」ともいえる関係性は、日本の不動産業界の仕組みとは大きく異なります。

ここでは、その構造を3つの側面から詳しく見ていきましょう。

1. 法的義務とライセンス制度の違い

日本の「宅地建物取引士」は、資格取得後に実務経験を積むことで独立開業が可能ですが、アメリカなどの多くの国では、ライセンスが明確に2段階に分かれています。

  • セールスパーソン(Salesperson): 一般的な不動産エージェントが取得するライセンスです。試験に合格しても、単独で営業活動を行うことは許可されておらず、必ずブローカーの監督下で免許を登録し、その指示のもとで業務を遂行する必要があります。
  • ブローカー(Broker): セールスパーソンとして一定の実務経験を積み、さらに高度な試験に合格することで取得できる上級資格です。ブローカーは自身の不動産会社を設立し、複数のセールスパーソンを監督する権限を持ちます。

つまり、大多数のリアルターは、法的に ブローカーという「親分」の傘下に入らなければ、不動産仲介業務を行うこと自体ができない のです。

この点が、日本の制度との大きな違いです。

項目日本の宅地建物取引士アメリカの不動産ライセンス
ライセンス種類1種類(宅地建物取引士)2種類(セールスパーソン、ブローカー)
独立開業一定の要件を満たせば可能ブローカー資格がなければ不可
監督関係専任の取引士を設置する義務ブローカーがセールスパーソンを監督する義務

2. 報酬管理と訴訟リスクへの備え

アメリカが「訴訟社会」であることは広く知られていますが、不動産取引においても、契約上のミスや説明不足が原因で高額な損害賠償請求に発展するケースは少なくありません。

個人のエージェントが単独でその責任を負うことは極めて困難です。

そのため、ブローカーが経営する不動産会社が、いわば 取引の安全性を担保する「防波堤」 としての重要な役割を担っています。

具体的には、以下の2つの仕組みが機能しています。

  • 報酬の一元管理: エージェントは、顧客から直接仲介手数料(コミッション)を受け取ることを固く禁じられています。すべての報酬は一度ブローカーの会社に入金され、そこから契約に基づいた配分率(例えば、会社が20%、エージェントが80%など)でエージェントに支払われます。これにより、金銭の流れが透明化され、不正を防止する仕組みとなっています。
  • 監督責任と賠償責任保険: ブローカーは、所属するエージェントが作成した契約書を法的な観点からチェックし、指導する監督責任を負っています。また、万一の訴訟に備え、高額な補償が可能な「業務過誤賠償責任保険(E&O保険)」に加入することが多くの州・ブローカレッジでE&O保険への加入が事実上の必須条件になっており、これが顧客保護にも繋がっています。

3. 「所属」と「雇用」の違い

リアルターは会社に「所属」していますが、その多くは日本の正社員のような「雇用関係」にはありません。

彼らの働き方は 「個人事業主(Independent Contractor)」 に近く、会社とは業務委託契約を結んでいる形が一般的です。

  • 歩合制: 会社から固定給が支払われることはなく、収入はすべて仲介手数料による歩合で成り立っています。そのため、健康保険や年金などもすべて自己負担です。出退勤の義務もなく、活動スタイルは個人の裁量に委ねられています。
  • ブランドとツールの利用: では、なぜ特定の会社に所属するのでしょうか。それは、会社の 「看板(ブランド信用力)」と「業務ツール(契約書システム、オフィス設備など)」 を利用するためです。RE/MAXやKeller Williamsといった大手フランチャイズに所属することで、個人では得難い社会的信用や、効率的な業務インフラを活用できます。その対価として、エージェントは売上の一部をロイヤリティとして会社に支払うのです。

このように、海外のリアルターは「会社というプラットフォームを利用してビジネスを行う個人商店主の集合体」と捉えると、その実態を理解しやすいでしょう。

なぜ社会的地位に「差」が生まれるのか

海外のリアルターの社会的地位が高い理由は、単に高収入であるからではありません。

その根底には、「顧客に対して誰の味方であるか」を法的に明確にする という、日本の不動産業界との決定的な違いがあります。

一言で表現するならば、日本の営業が「物件を売る人」と見なされがちなのに対し、海外のリアルターは「顧客の資産を守る専門家」として認識されています。

この「天と地ほどの差」とも言える社会的評価の違いは、どこから生まれるのでしょうか。

ここでは、その背景にある3つの要因を解説します。

1. 顧客への「忠誠義務」の違い

不動産取引におけるエージェントの立ち位置は、日米で大きく異なります。

この違いが、信頼と社会的地位の差を生む最大の要因です。

  • 日本(利益相反のリスク): 日本では、一人の営業担当者が「売主」と「買主」の双方を担当する 「両手取引」 が合法であり、むしろ推奨される傾向にあります。「高く売りたい売主」と「安く買いたい買主」という、利益が相反する両者の間に立つことは、構造的に「どちらの本当の味方にもなれない」状況を生み出します。これが、日本の不動産業界に対する根強い不信感の一因となっていることは否定できません。
  • アメリカ(顧客利益の最大化): アメリカの多くの州では、「売主側エージェント」と「買主側エージェント」の役割が法的に明確に分離 されています。エージェントは、自らが代理する顧客(クライアント)の利益を最大化する法的義務、すなわち「忠誠義務(Fiduciary Duty)」を負います。これは弁護士が依頼人のために尽力する姿に近く、「私の利益のために専門知識を駆使して戦ってくれる代理人」として、顧客から深い尊敬と信頼を得る基盤となっています。

2. 情報の「透明性」の違い

不動産情報の開示レベルも、日米の業界構造を大きく左右しています。

  • 日本(情報の非対称性): 日本には、不動産会社間で物件情報を共有する「レインズ(REINS)」というシステムがありますが、これは不動産業者のみがアクセスできる閉鎖的なデータベースです。そのため、「まだ市場に出ていない未公開物件があります」といった、情報の非対称性を利用した営業手法が生まれがちです。顧客側は常に「何か隠されているのではないか」という警戒心を抱きながら、取引に臨まざるを得ません。
  • アメリカ(情報のオープン化): アメリカには 「MLS(Multiple Listing Service)」 という、地域ごとに組織された不動産情報データベースが存在します。このMLSの情報は、Zillowなどの不動産ポータルサイトを通じて一般消費者にも広く公開されており、プロが見る情報と一般人が見る情報の差はほとんどありません。情報自体に価値はなく、リアルターの真の価値は、公開された情報を基に 「適正価格を分析し、最適な交渉戦略を立て、契約を法的に問題なく完遂させる」という専門的なスキル そのものにあります。この高度な専門性が、プロフェッショナルとしての地位を確立しているのです。

3. 不動産に対する「資産」という考え方

不動産を「消費財」と捉えるか、「投資資産」と捉えるかという、国民の意識の違いも影響しています。

  • 日本(家=消費財): 日本では、新築の建物は「完成した瞬間から価値が下がり始める」という認識が一般的です。そのため、住宅購入は「人生で最も高い買い物(消費)」と見なされる傾向があります。不動産営業は、自動車のディーラーやデパートの販売員に近い存在として捉えられがちです。
  • アメリカ(家=投資資産): アメリカでは、適切な管理と市場動向によって「不動産は価値が上昇する資産」という考え方が社会に浸透しています。リアルターは、顧客の資産形成を左右する極めて重要なパートナーと位置付けられており、「医者、弁護士、そしてリアルター」 は、生涯にわたって付き合うべき3大専門家とまで言われています。
項目日本の不動産営業アメリカのリアルター
顧客との関係売主・買主双方を担当(両手取引)どちらか一方の代理人に専念
法的義務善管注意義務顧客への忠誠義務(Fiduciary Duty)
情報アクセス業者間データベース(レインズ)が中心一般公開されたデータベース(MLS)が中心
価値の源泉未公開情報の提供力、営業力データ分析力、交渉力、法的知識
社会的イメージ物件を売る営業マン資産形成を助ける専門家・アドバイザー

まとめ:信頼の構造が社会的地位を創る

本記事では、海外のリアルターと日本の不動産営業について、その仕組みや社会的地位の違いを解説いたしました。

海外のリアルターが会社に所属するのは、法的な義務 と、訴訟社会における リスク管理 のためです。

彼らは個人事業主として活動しながらも、ブローカーの監督と会社の信用力を活用しています。

そして、彼らが専門家として高い社会的地位を確立している背景には、以下の3つの構造的要因があります。

  1. 法的義務: 顧客一方の利益に尽くす「忠誠義務」が法制化されていること。
  2. 情報の透明性: MLSにより不動産情報がオープンにされており、専門スキルで勝負する環境があること。
  3. 資産意識: 不動産を価値ある「資産」と捉え、その形成をサポートするパートナーとして認識されていること。

これらの仕組みは、単に「稼げる」から尊敬されるのではなく、顧客の利益を最大化し、その資産を守るという、信頼に基づいたプロフェッショナリズム が制度として確立されているからに他なりません。

日本の不動産業界も、近年はエージェント制度の導入など、顧客本位のサービスへの変革が進みつつありますが、その道のりはまだ始まったばかりです。

私たちINA&Associates株式会社は、創業以来「人財」と「信頼」を経営の核に据え、お客様一人ひとりの利益を最大化することを使命としてまいりました。
私たちの日々の歩みが、日本の不動産業界をより方向に変革する一助になりたいと強く願います。

稲澤 大輔

稲澤 大輔

INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。

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