賃貸管理

原状回復費用の相場と透明性の確保

原状回復費用の現状と課題:原状回復にかかる費用は物件の規模や状態によって様々ですが、一般的な賃貸住宅でも数十万円規模になることがあります。例えば、比較的軽微な補修で済む1K・ワンルームでも5~10万円程度、2LDKや3DKでは20~30万円、ファミリー向け3LDK以上では30~50万円ほどが一つの目安とされています 。入居期間が長く経年劣化が進んだ場合は修繕箇所も増え、10年以上住んだ後の退去では約11万円以上かかるケースもあります 。ただし、これらの相場はあくまで目安であり、物件の状況次第で費用は大きく上下し得ます 。実際に「原状回復費に相場はない」と言われるほどケースバイケースで、見積額が適正かどうか判断しづらい点がオーナーにとって課題です。

地域や市場動向による違い:原状回復費用は地域の市場環境によっても差が生じます。一般に東京・大阪・名古屋など大都市圏は地方に比べて人件費や資材費が高く、地方より費用が割高になりがちです 。一方で地方では業者数が限られる分、競争原理が働きにくく割高な見積りが出る場合もあります 。また季節的な要因もあります。1~4月の引越し繁忙期は退去が集中するため原状回復業者も忙しく、料金が高騰しやすい傾向があります 。逆にオフシーズンに工事を依頼できれば、多少費用を抑えられる可能性があります 。さらに近年はウッドショックや人手不足、新型コロナの影響による資材価格高騰や人件費上昇で原状回復費用自体が年々増加傾向にあります 。こうしたマーケットの動向を把握せずにいると、オーナーは提示された高額な費用を「仕方ない」と受け入れてしまいがちです。

相場と透明性の確保の重要性:原状回復費用の適正化には、市場相場を把握し透明性を確保することが欠かせません。もし管理会社から提示された見積もりが高額でも、適正価格の基準が分からなければ適切な判断ができません。国土交通省の「原状回復ガイドライン」では原状回復の範囲や負担区分の考え方が示されていますが(法的強制力はないものの判例に基づく指針)、費用の妥当性まではカバーしていません。そのため、オーナー自身が市場の相場観を身につける必要があります。具体的には、複数の業者から相見積もりを取り比較するのが有効です 。実際、ビルオーナー向けの調査では指定業者1社の見積もりと複数業者による入札見積もりを比較すると、金額に2倍以上の開きが出ることも珍しくないと報告されています 。競争原理が働かない状態では3~6割高い請求になるケースもあるため 、一社の言い値を鵜呑みにせず他社相場と照らし合わせることが重要です。

適正価格の見極め方:相場との差異を見極めるには、見積書の内容を細部まで確認しましょう。内訳ごとの単価が不明瞭な場合は問い合わせてでも教えてもらい、単価が市場価格と乖離していないかチェックします。例えばクロス張替えの単価が1㎡あたり数千円にもなっていないか、ハウスクリーニング代が部屋の広さに比して不自然に高くないかなどです。管理会社や業者に任せきりにせず、オーナー自ら工事内容や数量について相談・確認する姿勢が求められます 。大手管理会社の中には自社の割引仕入れによって「安く上げているから任せてほしい」という説明をするところもあります。しかし、管理会社に完全にお任せで言い値を支払うのは得策ではないと不動産大手も注意喚起しています 。見積もりがおかしいと感じたら遠慮なく質問し、必要に応じて第三者の専門家に意見を求めることも検討しましょう。

管理会社の元請け方式をやめる:中間マージン削減によるコスト最適化

管理会社発注の構造と中間マージン:多くのオーナーは物件の管理を委託している管理会社に退去時の原状回復工事も一任しています。管理会社は通常、自社で工事を行うのではなく提携の施工業者(指定業者)に発注し、工事を段取りします 。しかしこの方式では、オーナーが支払う費用に管理会社の取り次ぎ手数料(中間マージン)が上乗せされるのが一般的です 。管理会社→元請け業者→下請け業者…という多重下請け構造になっている場合は、元請けから職人に至る各段階で経費や利益が積み上がり、最終的な請求額が本来の工事費の1.5~2倍以上になることもあります 。実際、大手管理会社だからといって必ずしも安くなるわけではなく、管理会社側もビジネスである以上、原状回復工事で利益を確保しようとするインセンティブが働くため、注意が必要です。

直接発注とコスト削減の効果:原状回復費用を抑えるには、管理会社の下請けルートを介さず直接施工業者に発注する方法が有効です。管理会社を通さず自分で業者を選べば、中間マージン分を削減できるためよりリーズナブルに工事を依頼できます 。実際、賃貸管理の現場でも「施工業者に直接発注するほうがコストダウンできる」という認識が一般的です 。大手管理会社だからといって安心はできません。前述のようにボリュームディスカウントが効いていてもそれ以上のマージンを取られては意味がなく、結局オーナー負担は膨らんでしまいます。可能であれば信頼できる工事業者を自ら探して契約するのが理想です 。専門業者に直接頼めば、不要な工事を勧められるリスクも減り、工事内容をオーナー主導でコントロールできます。また、工事項目ごとに専門業者へ個別発注する方法もコスト削減には有効です。例えばクロス張替えは内装業者、清掃はハウスクリーニング業者、設備交換は設備業者…と分離発注すれば、それぞれの中間費用を省けます 。ただし、この場合は業者選定や日程調整の手間が増えるため、オーナーの時間的コストと相談して決める必要があります 。

管理会社に交渉する選択肢:直接発注が難しい場合でも、管理会社任せのままにしない工夫が求められます。まずは管理会社から提示された見積もりに対し、疑問点を遠慮なく質問・交渉することです。内訳の単価や工事の必要性について説明を求め、場合によっては「他の業者にも当たってみたい」と伝えてみましょう。優良な管理会社であればオーナーの意向を汲み、見積もりの再検討や安価な業者の紹介に応じてくれるはずです。逆にオーナーの指摘や要望を拒んで自社指定業者に固執するようであれば、管理会社自体の変更も視野に入れた方が良いかもしれません。賃貸管理会社は多数ありますので、費用面の透明性やオーナー視点の提案をしてくれる会社を選ぶことも、長期的にはコスト削減につながります 。いずれにせよ、「管理会社に任せておけば安心」と丸投げするのではなく、オーナー自らが主体的に関与する姿勢が中間マージンの無駄を省く第一歩です 。

オーナーが取るべき実践的アクション

最後に、原状回復費用を最適化するためにオーナーが今日から実践できるポイントを整理します:

  • 相場情報の収集: 日頃から信頼できる不動産業界メディアや管理会社の資料などで原状回復費用の相場観を養っておきましょう。地域や物件タイプごとの大まかな費用レンジを把握しておくと、高額な見積もりを提示された際にも落ち着いて対処できます。
  • 複数業者からの相見積もり: 退去が発生したら、できる限り複数の施工業者に現地調査と見積もりを依頼しましょう。他社比較をすることで適正価格の範囲が見えてきますし、管理会社経由の見積もりしか無い場合に比べ交渉力も増します 。相見積もりの結果、提示額が大きく異なる(場合によっては倍近い差が出る)こともあります 。その際は安さだけでなく各社の施工品質や実績も考慮し、信頼できる業者を選定してください。
  • 見積もり内容の精査と不要工事の削減: 提出された見積書は項目ごとに必要性を精査しましょう。クロスや床材の全面張替えなど大掛かりな工事が提案されていても、本当に交換が必要な箇所か検討します。汚れのクリーニングや部分補修で済むところはないか、設備交換も動作に問題なければ見送れないか判断しましょう 。原状回復工事は新品同様に戻すこと自体が目的ではなく、次の入居募集に支障がない状態にするのが目的です。過剰な施工を省けばコストは大幅に減らせますし、結果的にオーナー負担を軽減しつつ空室期間も短縮できる可能性があります。
  • 直接発注・分離発注の検討: 管理会社に頼らず、オーナー自身で工事業者を手配することも積極的に検討しましょう 。信頼できる業者ネットワークを持つオーナーは、それを活用することで中間マージンをカットできます。小修繕であればオーナー自身がDIYで対応する手もありますが、難しい場合は分野ごとに専門業者へ依頼するのも一策です 。例えば「クロス張替えは内装業者、清掃はクリーニング専門業者」というように分けると、それぞれの直接取引となり中間コストを抑制できます 。ただし業者探しや日程調整の手間が増える点には注意し、無理のない範囲で実践してください。
  • 管理会社との連携と交渉: 現在の管理会社に原状回復を任せている場合でも、オーナーの意思を積極的に伝えることが大切です。 見積もり取得の段階から立ち会いや確認を行い、「この項目は予算内で抑えたい」「他社にも聞いてみたい」等、希望や懸念を伝えましょう。管理会社もビジネスパートナーですから、オーナーがコスト意識を持っていると分かれば対応が変わることもあります。交渉の結果、費用が適正にならない・納得できない場合は、管理会社の変更専門コンサルへの相談も視野に入れてください。原状回復費用の適正化に積極的な管理会社を選ぶことは、長期的な経営安定につながります。

原状回復費用は賃貸経営において避けられないコストですが、その内訳と発注方法次第で大きな差が生まれます。マーケット相場を理解し、管理会社任せの構造から脱却することで、不透明な高額請求を防ぎ適正な費用に抑えることが可能です。 オーナー自身が主体的に情報収集と交渉を行い、必要に応じて直接発注や複数見積もりを活用することで、原状回復のコストは確実に最適化できるでしょう。適切なコスト管理によって経営効率を高め、安心して賃貸運営を続けていきたいものです。

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