賃貸管理

賃貸管理におけるリノベーション活用で賃料アップを実現する戦略

賃貸管理においてオーナーが収益を最大化するには、空室率の低減と賃料収入の向上という二つの課題をバランス良く解決する必要があります。特に日本では借地借家法により既存入居者への安易な賃料値上げが難しく、新たな入居者募集のタイミングで価値向上の理由がなければ賃料アップは困難です 。こうした中、物件自体の価値を高めて入居者に「高い賃料でもこの部屋に住みたい」と思ってもらうための戦略としてリノベーション(大規模改修)が注目されています 。以下では、賃貸管理における賃料アップ戦略の全体像と、リノベーションを中心とした具体的な方法や事例、効果、注意点について詳しく解説します。

賃料アップ戦略の全体像:なぜリノベーションなのか

賃貸住宅が飽和状態にある現在、空室を埋めるために単に原状回復するだけでは他物件との差別化が難しく、入居者を確保できないケースが増えています 。特に築古物件や間取り・設備が時代遅れの物件では、そのままでは長期空室に陥るリスクが高まります 。一方で、空室が続くからといって安易に賃料を下げてしまうと利回りが低下し、不動産経営の悪化につながります 。このジレンマを解決する有効策として、入居者ニーズに合ったリノベーションによる物件価値向上が挙げられます。

賃貸経営の専門家も「築年数が経過して内装・設備が古くなった物件で賃料を維持・向上させたい場合、リフォーム/リノベーションは必須」と指摘しています 。法的にも既存契約中の賃料増額には正当事由が必要なため、実際には退去後の再募集時が賃料を上げる唯一のチャンスと言えます 。しかし現代の入居者は地域の相場賃料を熟知しており、営業努力だけで相場以上の家賃を払ってもらうのはほぼ不可能です 。そこで、物件そのものの魅力を高めるリノベーションによって「この内容なら相場より賃料が高くても借りたい」と思わせることができれば、賃料アップと空室解消の両立が可能になるのです 。

具体的な賃料アップ策としては、設備のグレードアップや間取り変更などのリノベーションが中心となりますが、他にも入居者サービスの付加(例:インターネット無料、家電付き)や駐車場・トランクルームの活用なども考えられます。ただし根本的な競争力強化には物件そのものの改良が効果的であり、築古物件で賃料収入を維持・向上させるにはある程度の投資を伴うリノベーション戦略が避けて通れません 。

リノベーションの種類と費用対効果

一口にリノベーションと言っても、改修の内容によって必要な費用も効果も様々です。限られた予算の中で費用対効果の高い改修を選ぶことが、賃料アップ戦略の成否を分けます 。賃貸物件オーナーに人気の主なリノベーション施策を、費用相場と賃料アップの目安とともに以下にまとめます 。

  • モニター付きインターホン設置(費用:約5万円) – 賃料目安 +2,000~5,000円/月 。女性や単身者の安心感を高める防犯設備で、スマホ連携や録画機能付きなら更に訴求力アップ。
  • 和室からフローリングへの変更(6畳あたり費用:約12~18万円) – 賃料目安 +3,000~7,000円/月 。若年層にはフローリングが好まれる傾向が強く、清潔感と管理のしやすさも向上します。
  • 間取り変更(壁の撤去/新設)(費用:約3~25万円) – 賃料目安 +5,000~10,000円/月 。使い勝手の悪い間取りを解消し、単身向けなら開放感あるワンルーム化、ファミリー向けなら部屋数増などニーズに合った変更で大きな効果。 ※低コストでも間取り改善は可能なため費用対効果が高い施策です 。
  • キッチン交換(ワンルームの場合)(費用:約20~25万円) – 賃料目安 +3,000~7,000円/月 。単身物件ではキッチンの豪華さが家賃に与える影響は限定的ですが、IHコンロや収納充実など機能性を高めることで物件の魅力向上に寄与します 。
  • 3点ユニットバスをバス・トイレ別に改装(費用:約100~180万円) – 賃料目安 +7,000~15,000円/月 。近年ユニットバスを嫌う入居希望者が多く、「バス・トイレ別」は特にファミリー層・カップル層では必須条件となりつつあります 。費用はかかりますが、長期的な入居率向上に貢献する改修と言えるでしょう 。

上記のように、小規模な設備投資から間取りに踏み込んだ改造まで多様な選択肢があります。それぞれ初期コストと見込まれる賃料増加額を比較し、投資回収に何年かかるかをシミュレーションすることが大切です。重要なのは闇雲にお金をかけることではなく、かけた費用以上の収益(家賃増)が見込めるかを見極めることです 。一つの目安として「リノベ後の家賃の2~3年分を上限予算とする」あるいは「今後10年間運用するなら5年以内に回収する」といった考え方があります 。例えば前述のケースでは、原状回復だけでも80万円程度は必要な状況でしたが、それに加えて約120万円を投資(合計200万円のリノベ費用)することで年間16.8万円の家賃増収を実現し、約7年で追加投資分を回収できる見通しとなりました 。投資分を回収し終えればそれ以降はプラスの収益となるため、長期保有を考える場合この回収期間は十分許容範囲と言えます 。短期的に物件売却を検討する場合でも、家賃増加により資産価値(売却価格)が向上するメリットがあります 。

入居率向上と空室対策としてのリノベーション効果

空室対策としてのリノベーションは、賃料アップだけでなく入居率の向上にも直結する点でオーナーにとって魅力的な手段です。設備の老朽化や間取りの悪さが原因で入居者が決まらない物件では、適切なリノベーションにより物件の魅力が向上し、結果的に家賃の維持・アップや入居率改善が期待できます 。実際、「リノベーション後に賃料を強気に設定しても早期成約した」「改修した途端に問い合わせが増えた」といった声も多く、空室解消の切り札となっています。

リノベーションに踏み切った物件では募集開始から成約までの期間が大幅に短縮される傾向があります。施工中あるいは完成直後に入居予約が入るケースも珍しくなく 、これはリノベーションによって「早く借りたい」と思わせる付加価値が生まれている証拠です。空室期間の短縮はそのまま空室損失(家賃収入ゼロの期間)の減少につながり、トータルの収益改善に寄与します。

また、質の高いリノベーションによって物件に愛着を持ってもらえれば、入居者の長期居住にもつながる可能性があります。例えば古いユニットバスを敬遠していた入居者層もバス・トイレ別の改装によって満足度が上がれば、その物件に長く住み続ける傾向が期待できます 。入居者の定着率が上がれば退去に伴う再募集費用や空室リスクも下がるため、中長期的な経営の安定性が高まります。

ただし、リノベーションは万能薬ではなく物件によって向き不向きがある点には注意が必要です。この点については後述する注意点のセクションで詳述しますが、物件の立地や市場動向によってはリノベーション以外の空室対策(例:募集条件の見直しや管理会社による集客強化)のほうが効果的な場合もあります。いずれにせよ、賃貸管理において空室を減らし入居率を上げるうえでリノベーションは強力な選択肢の一つであり、賃料アップという収益面でのメリットと相まって検討する価値が高い施策と言えるでしょう 。

他物件との差別化を図るリノベーションの効果

賃貸市場で競合物件に打ち勝つには、「他にはない魅力」を演出することが重要です 。リノベーションはまさにこの差別化に直結する手段であり、周辺の類似物件と差をつけることで入居者の注目を集められます。単なる原状回復に毛が生えた程度の改修では差別化は難しく 、入居者に内見してもらった際に「この物件はどこか他と違う、おしゃれで魅力的だ」と感じてもらえるような工夫が求められます 。

差別化の具体例として、床暖房を標準装備することで同エリアの競合物件にはない付加価値を打ち出し、若い単身者をターゲットに見事成約につなげました 。また、間取りや設備を現代のライフスタイルに合わせて再構築することも有効です。例えばコロナ禍以降のニーズに対応して在宅ワーク用の書斎スペースを新設し、室内窓でリビングと緩やかにつなげる工夫を施したマンションでは、従来の1LDKにはなかった付加価値が評価され、賃料を2万円上乗せしても完成前に入居契約が決まる結果となりました 。このように時代の変化やターゲット層のニーズを捉えたリノベーションは、「この物件だから選ぶ」という動機を入居者に与え、賃料アップにも十分見合う差別化効果を発揮します。

デザイン面での差別化も有効です。内装のテイストを周辺物件とは一線を画すおしゃれなものにしたり、照明・クロス・床材など細部にこだわったリノベーションは、写真映えも良くポータルサイトでの反響増加にもつながります。実際、「内覧時に入居希望者が物件に一目惚れし、その場で申込が入った」というケースも報告されており、物件の第一印象を高めるリノベーションの威力がうかがえます 。オーナー目線ではデザインに凝ることを「贅沢ではないか」と心配する向きもありますが、周辺相場より高い賃料でも選ばれる物件になるためには、他にはない魅力を打ち出す投資も必要経費と捉えるべきでしょう。

オーナー目線で考えるリノベーション実施時の注意点

リノベーションによる賃料アップは魅力的ですが、オーナーとしては費用対効果やリスクを慎重に見極める必要があります。以下、リノベーションを検討・実施する際の主な注意点やポイントをまとめます。

  • 物件の状況を見極める: リノベーションが効果的かどうかは物件によります。築15年以上経過し内装や設備が明らかに時代遅れな物件、立地は良いのに設備グレードが低く家賃を上げられていない物件、内見者や仲介業者から「設備が古い」「使い勝手が悪い」と指摘される物件などは、競争力向上の余地が大きくリノベの効果が期待できます 。一方で、立地条件が悪い(駅から遠い等)物件や、周辺に安価な類似物件や新築物件が多いエリアでは、いくら内装を良くしても入居付けに苦戦したり家賃アップが難しい場合があります 。このようなケースでは高額なリノベ費用を投じても回収が困難になりかねません。リノベーションは投資回収の見込みがある場合にのみ実施するというのが基本スタンスであり 、まず自分の物件がリノベ投資に値する状況かを冷静に判断しましょう。
  • 市場ニーズを調査する: オーナー自身の思い込みだけで改修内容を決めず、客観的な市場分析に基づいてリノベプランを練ることが重要です 。周辺の競合物件の築年数・間取り・設備・賃料をリサーチし、自物件に不足している要素(例:「このエリアの他物件にはない設備は何か」「ターゲット層が不満に感じている点はどこか」)を洗い出します 。例えば、ファミリータイプ物件が多い地域で自物件もそれに合わせていたが、実は単身者需要が高まっているとわかれば思い切って間取り変更で単身仕様に変える、といった戦略も考えられます。3C分析(Competitor=競合、Customer=顧客需要、Company=自社物件の強み)の手法を用いて入居者ターゲットと改修方針を明確化するのも有効です 。市場ニーズにマッチしたリノベーションであれば、高い費用対効果が得られるでしょう。
  • 過度な投資とならないよう計画する: リノベーション費用は際限なくかけられるものではありません。投資額に見合った賃料アップ幅をシビアに見積もり、回収期間の目安を立てた上で予算設定を行いましょう 。前述のように「家賃○年分以内」といった指針を参考にしつつ、ローン利用の場合は返済計画も念頭に置きます。また、リノベーション中はその部屋の賃料収入が発生しないため、工期も含めた損益シミュレーションが必要です。多額の費用を投じても周辺相場とかけ離れた家賃設定では入居者が見つからないリスクもあるため、投資とリターンのバランスを常に意識してください 。
  • 段階的・補助的な対策も検討: 本格的なリノベーションの前に、まずは低コストで実施できる対策から試すことも有用です 。例えば募集広告の写真をプロ並みに撮り直したり、キャッチコピーを工夫して反響率を高める 、家賃設定やターゲット層を見直す、クロスの全面張替えやハウスクリーニングで清潔感を出すなど、比較的安価な空室対策を講じることで状況が改善する場合もあります 。それでも埋まらない根本要因が設備の魅力欠如にあると判明した段階でリノベーションを決断する、というプロセスでも遅くはありません。また、自治体によっては賃貸住宅のリフォーム支援補助金制度がある場合もあります。補助金の活用信頼できる業者選び など、コスト削減と施工品質確保の工夫も忘れずに行いましょう。
  • 入居者目線・入居後の運用も考慮: リノベーション計画は常に入居者目線で検討します。いくらオーナーのこだわりを反映させても、入居者ニーズとかけ離れていては意味がありません。また、リノベ後の設備故障対応やメンテナンス体制も考えておく必要があります。特殊な設備を導入したもののメンテナンス費がかさみ結局利益が圧迫された、ということのないように、導入後の運用コストや管理体制も含めて計画しましょう。さらに、将来的に売却を視野に入れるなら、リノベ内容が資産価値向上にプラスかどうか(汎用性があるか、法規制に抵触しないか等)もチェックポイントです。

以上の点を総合的に勘案し、オーナーとして戦略的にリノベーションを活用することが大切です。リノベーションはあくまで手段であり、目的は収益の最大化と資産価値の向上です。物件の状況と市場を見極め、費用対効果に優れた最適解を選ぶことで、賃貸管理における賃料アップを着実に実現できるでしょう。

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