不動産仲介業は参入企業・営業者が非常に多く、市場競争が激しい業界です。実際、2022年度時点で日本全国に12万社以上もの不動産会社が存在し、顧客のニーズも多様化しています。そのような環境下では、「自分を選んでもらう理由」を作ることが重要です。単に物件を紹介するだけではなく、顧客から信頼され選ばれる存在になるために、個人ブランディングの重要性が増しています。
また、不動産業界には「しつこく勧誘してくる」などのマイナスイメージも根強く残っているのが現状です。そのため、自分自身のブランド(信用や専門性、人柄)を築き上げることで、そうしたネガティブな印象との差別化を図り、顧客に安心感を与えることができます。つまり、競争激化の不動産仲介市場で生き残り、顧客から選ばれるためには、個人ブランディング戦略が欠かせないのです。
個人ブランディングの基本戦略
個人ブランディングを成功させるための基本は、「信頼獲得」と「差別化」の二本柱です。
まず信頼を獲得するためには、日々の接客や情報発信において誠実さと一貫性を示すことが大切です。顧客に信頼してもらうには、こちらから顧客を信頼する姿勢を示すことが有効だと言われています。相手の話に真摯に耳を傾け、ニーズや不安に寄り添うことで、「伴走者」としての信頼関係を構築できます。例えば、初回面談では自分のことばかり話すのではなく、自己開示を交えつつ相手の希望を丁寧に聞き出すと良いでしょう。自身の住宅選びの経験や出身地・家族構成など適度に共有することで親近感を持ってもらい、その上で「○○様の場合はどんなこだわりがありますか?」と尋ねれば、顧客も本音や要望を語りやすくなります。こうしたコミュニケーションの積み重ねが、「この人になら任せたい」と思ってもらう信頼の土台になります。
次に他の仲介業者と差別化するポイントを明確にしましょう。自分の強みや専門性は何か、他の誰より詳しいエリアや物件タイプはあるかを分析します。他者が提供していないサービスや、顧客の不満を解消できる独自のアプローチが見つかれば、それがあなたのブランドの核になります。例えば、「○○エリアの新築マンションなら○○さん」と指名されるような専門性の打ち出し方は効果的です。地域密着型で地元情報に通じている、投資用物件に強い、インテリアコーディネートの知識がある、ITツールを駆使した効率的な提案ができる等、自身の特徴をアピールポイントに変換しましょう。全国規模で同業他社が存在する中で受注につなげるには、まさに「○○なら○○さんにお願いしたい」と思わせる個人ブランドの構築がカギとなるのです。
オンラインでのブランディング戦略
SNSなどオンライン媒体の活用は、現代の個人ブランディングにおいて欠かせない要素です。特にコロナ禍以降は非対面で顧客と接点を持つ機会が増え、不動産業界でもSNS発信が注目されています。オンライン上での情報発信力を高め、より多くの人に自分の存在と価値を知ってもらいましょう。
- SNSの活用(Instagram・Twitter・LinkedIn など): 写真や動画中心のInstagramは日本国内で約3,300万人ものユーザーが利用しており、物件の外観・内装を直感的にアピールするのに最適です。綺麗な写真や「インスタ映え」する物件紹介、ストーリーズやリール動画での内見紹介などでフォロワーとの接点を増やしましょう。Twitterは拡散力が高く、フォロワーが少なくても有益な投稿がリツイートで一気に拡がり話題になる可能性があります。最新の不動産市況やお役立ち豆知識を短いツイートで発信したり、地域の出来事にコメントすることで専門家として認知してもらえます。LinkedInはユーザー数こそ国内300万人規模と他SNSより少ないものの、ビジネス特化型SNSとして同業者や法人顧客とのネットワークづくりに有効です。業界知見の共有や実績紹介、資格取得の報告などプロフェッショナルな情報を発信することで、自身の信頼性を高められるでしょう。いずれのSNSでも大切なのは継続的な発信と双方向のコミュニケーションです。コメントへの返信やDMでの質問対応などを丁寧に行い、「身近で相談しやすい存在」としてファンを増やすことがブランディングにつながります。
- 公式サイト・ブログの活用: 自分の公式ホームページやブログといったオウンドメディアは、情報発信の拠点として重要です。他者のプラットフォームに依存せず自分の言葉で価値観やノウハウを発信できる場なので、ブランディング構築に最適だとされています。例えばブログで「失敗しない物件選びのポイント」「◯◯エリアの教育環境レポート」といった有益な記事を定期的に公開すれば、読者である見込み客から専門家として信用を得られます。さらに、そのようなコンテンツはウェブ上に蓄積され資産となり、検索エンジン経由で新たな顧客との接点を生み出します。サイト上で自分のプロフィールや顔写真、理念なども発信しておくことで、「顔が見える営業マン」として安心感を与えられるでしょう。デザインや使いやすさにも配慮し、問い合わせフォームなど導線を整えることで、オンライン上の信頼構築と集客効果を最大化できます。
- YouTube・ポッドキャストの活用: 動画や音声メディアも個人ブランディングには有力な手段です。YouTubeで内見ツアー動画や不動産Q&A解説動画を投稿すれば、視聴者に対して文章以上に分かりやすく情報提供ができます。実際に物件を歩きながら紹介する様子や、自分の人柄・専門知識が伝わる動画コンテンツは、視聴者との信頼関係構築に有効です。「この人に相談してみたい」と思ってもらえるきっかけになるでしょう。ポッドキャストでは、通勤時間に聴ける不動産市況解説や投資アドバイスなどを配信できます。映像がない分、話し方や声のトーンで落ち着きや誠実さを感じてもらう工夫が必要ですが、隙間時間に繰り返し聴いてもらえるためファン化しやすい利点があります。いずれにせよコンテンツ内容は顧客の役に立つことを第一に考え、売り込みより知識提供や共感の共有に重きを置くことが大切です。動画・音声で影響力が増せば、結果的にあなた個人のブランド価値も高まり、問い合わせや紹介につながりやすくなります。
オフラインでのブランディング戦略
オンラインが台頭する時代でも、直接対面で与える印象や地域での評判づくりは依然として重要です。オフラインでの接点を大切にし、リアルな場でも自分のブランドを表現していきましょう。
- 対面営業での第一印象作り: 「営業は第一印象が肝心」と言われるように、初対面の顧客に与える印象がその後の関係を左右します。清潔感のある身だしなみや服装はもちろん、名刺のデザインや挨拶の仕方、笑顔など基本的なポイントを押さえましょう。自分では良いつもりでも、他者からどう見られているかを客観的に知ることも大切です。「第一印象で堅苦しい印象を与えていないか」「笑顔はちゃんとできているか」など、同僚や上司に率直なフィードバックを求め、自分の課題を把握して改善する努力をしてください。また、自己紹介では業務的な肩書きだけでなく、趣味や地元ネタなど人となりが伝わる要素を交えつつ手短に話すと親しみやすさが生まれます。最初に心の距離を縮め、「話しやすい」「信頼できそう」という印象を与えられれば、その後の提案や交渉もうまく進みやすくなるでしょう。表情・声のトーン・姿勢にも気を配り、誠実さと熱意が伝わる態度で臨むことが大切です。
- ネットワーキングイベントや交流会の活用: 業界内外の人脈を広げることで、自分のブランドを間接的に宣伝する効果も期待できます。不動産業界の勉強会や異業種交流会、地元の商工会議所の集まりなどに積極的に参加してみましょう。名刺交換だけで終わらず、その場で得た知り合いとは後日SNSでつながったりお礼メールを送るなどフォローすることで印象付けます。「顔が広い営業マン」という評判が立てば信用力が増し、そこから紹介話が舞い込む可能性もあります。特に住宅ローン担当の銀行マンやリフォーム会社、保険会社など周辺業界のプロフェッショナルとのネットワークは、顧客紹介の相互連携に役立ちます。交流会では自分の強みや専門分野を簡潔に伝える自己PRも用意しておき、記憶に残る存在になるよう心がけましょう。例えば「○○エリア専門の不動産仲介をしています。◯◯のことなら何でもご相談ください。」といった一言で、自身のブランディングコンセプトを伝達します。こうした地道なネットワーキング活動が、自分の名前を広め信頼を積み上げることにつながります。
- 地域密着型マーケティングの実践: 自分が活動する地域での評判や知名度も重要なブランド要素です。地元密着を掲げるなら、その地域のイベントやコミュニティに積極的に関わりましょう。例えば、地域の清掃活動やお祭りの運営を手伝ったり、学校・自治会向けに不動産市況セミナーを無料開催するなど、地域貢献と専門性アピールを兼ねた取り組みがおすすめです。地元のフリーペーパーや情報誌にコラムを寄稿したり、駅前で不動産相談会を開くことも効果があります。「あの不動産屋さんは地域のためによく頑張っている」「街のことをよく知っている頼れる人だ」という評判が広がれば、紹介や口コミでお客様が増えていくでしょう。店舗を構えている場合は外観や内装に親しみやすさを持たせ、誰でも気軽に立ち寄れる雰囲気作りをするのもポイントです。要するに、自分の生活圏・営業圏で「地域の不動産のことならあの人に相談しよう」と思われる存在になることが、盤石な個人ブランドの確立につながります。

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成功事例と具体的な施策
では、実際に個人ブランディングに成功している不動産仲介業者の例と、そこから学べる具体的な施策を見てみましょう。
たとえば、女性向けの賃貸仲介サービス「アイズルーム(isRoom)」は、SNSブランディングで大きな成果を上げた成功事例です。Instagram上で「女性による女性のための賃貸」という明確なコンセプトを打ち出し、運用開始わずか3ヶ月で1万人超のフォロワーを獲得しています。競合他社との差別化ポイントは大きく3つあり、①短尺動画(リール)を駆使したテンポの良い情報発信、②シンプルで共感を呼ぶコンセプト(女性目線の安心感)、③利用者の口コミを強調表示して信頼性をアピールしている点です。おしゃれな物件紹介や女性スタッフの日常投稿を交え、「このアカウントなら自分に合った部屋が見つかりそう」「安心して相談できそう」というファン心理を醸成したことが成功の要因と言えるでしょう。結果としてSNS経由の問い合わせが増え、従来のポータルサイト頼みではない独自集客経路を築くことに成功しています。
また、別のケースでは「SNS×地域密着」を徹底してブランドを確立した例もあります。ある不動産仲介会社では、大手ポータルサイトに物件広告を出すよりも自社SNSでの情報発信に注力し、フォロワーとのコミュニケーションを通じて信頼関係を深めました。例えばTwitterで地域のカフェや公園を紹介したり、YouTubeで街歩き動画を配信することで、「街の案内人」としてのポジションを獲得しています。SNS上で親しくなった見込み客がそのまま来店し契約につながるケースも多く、効率的かつ濃い顧客接点を実現しています。さらに、自社サイトのリニューアルでもSNSで醸成したカジュアルで親身なイメージを反映し、オンラインとオフラインでブランドイメージを統一しました。このようにITを活用しつつ人と人との距離を縮める工夫を重ねた結果、紹介客やリピーターが増え、安定した業績につながっています。
上記の事例から学べる施策を以下にまとめます。自分の状況に合わせて取り入れられるものから実践してみましょう。
施策 | ポイント・具体例 |
---|---|
専門分野の明確化 | 自身の強みや得意エリアを打ち出す。例:「○○エリア×新築マンション専門」「投資用ワンルーム特化」など特定分野にフォーカスし、その分野の情報発信を集中して行う。専門性が高まるほど指名されやすくなる。 |
SNSでの継続的情報発信 | Instagramで物件写真やリール動画を定期投稿、Twitterで不動産豆知識を発信など、一貫したキャラクターで毎週複数回は投稿する。コンセプトを統一し、投稿ごとに「この人らしさ」が伝わるよう工夫する。コメント返信やDM対応も迅速丁寧に行いファンとの関係を深める。 |
口コミ・実績の見える化 | SNSのハイライト機能やサイトの声紹介ページで、お客様の声や成約実績を積極的に共有する。第三者の評価を提示することで新規顧客の安心感を高める(例:「20代女性の初めての一人暮らしサポート事例」投稿など)。 |
公式サイト・ブログ運営 | ブログで専門知識や地域情報を発信し、自分の知見を資産化する。サイトにはプロフィールや顔写真、対応方針を掲載し、人柄や理念が感じられるようにする。お問い合わせフォームやLINE等も設置して見込み客を逃さない動線を作る。 |
第一印象向上トレーニング | 同僚から自分の印象についてフィードバックをもらい改善する。身だしなみや表情の練習、話し方の工夫(穏やかで明瞭なトーン)などを習慣づける。「最初の5秒で信頼される」ことを目標に、日頃から笑顔や姿勢をチェックする。 |
ネットワーク作り | 毎月1回は交流会や勉強会に参加し、新しい名刺を増やす。得た縁はSNSで繋がり、定期的に近況報告や情報共有をして関係を維持する。紹介してもらった際は迅速にお礼と報告をすることで信頼を深め、さらに人脈を広げる好循環を狙う。 |
地域活動への参加 | 地域の清掃やイベントにボランティア参加し、「地域愛」をアピールする。地元学校での職業講話や、不動産無料相談会の開催なども有効。地域のニュースや話題にも精通しておき、雑談で披露できるようにすることで「土地勘のある頼れる人」というブランドイメージを築く。 |
顧客体験の一貫性 | オンライン上の発信内容と、対面での振る舞いにブレがないようにする。SNSでフランクなキャラクターなら接客でも親しみやすさを意識し、逆に落ち着いた専門家キャラなら文章トーンも丁寧に。どの接点でも同じ人格・価値観が伝わることで信頼感が増す。 |

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まとめと今後の展望
個人ブランディングは一朝一夕で完成するものではなく、継続的に育てていくものです。重要なのは「顧客視点で自分の価値を示し続ける」というマインドセットを持つことです。日々の営業や発信の中で、自分が提供できる価値や想いを一貫して届けましょう。それが小さなことであっても積み重ねれば、やがて「あなただからお願いしたい」という指名や紹介につながります。
また、ブランディングは中長期的に不変であり続けるからこそ価値が上がるものです。目先の成果に一喜一憂するのではなく、半年後・一年後に理想とする自分の姿(専門家として信頼されている、○○と言えばこの人と認知されている 等)を描きながら行動しましょう。その際、時代の変化やテクノロジーの進歩も味方につけ、柔軟に手法をアップデートする姿勢も大切です。例えば新しいSNSが流行したら試してみる、オンライン接客ツールを導入してみるなど、常にチャレンジを続けることでブランドはさらに強化されていきます。
最後に、顧客との信頼関係を大切に守り続けることがブランディングの根幹です。どんなに発信力や知名度が上がっても、目の前の一人ひとりの顧客に真摯に向き合い、期待に応え、時には期待以上の価値を提供することを怠ってはいけません。その積み重ねが評判となりブランドとなります。INA&Associates株式会社としても、「あらゆる人が正当に評価され、報われる社会をつくる」という理念のもと、不動産仲介業者の皆様が正当な評価を得られるようなブランディング支援を重視しています。
ぜひ今日からできる一歩を踏み出し、あなた自身のブランド価値を高める行動を始めてみてください。それが将来にわたってあなたの強みとなり、不動産仲介という仕事をさらに発展させる原動力になるはずです。